島田荘司著『御手洗パロディ・サイト事件』南雲堂、2000.4
ウェブ上に存在するらしい「御手洗潔」シリーズのパロディ小説群の、これまたパロディ小説群22編を「島田荘司著」となっていることから恐らくは間違いなく島田自身が書き下ろし、長編にまとめ上げたもの。島田自身が書いているのだろうせいもあってか、個々の作品の出来は、それはそれは、とても素晴らしい。短編集としては実に堪能し得るものだし、最近の同氏の作品には御手洗潔はチョロチョロとしか登場していないので、御手洗ファンには堪らないだろう。

さて、問題は、一つの長編ミステリとしての出来映えである。本書に収められたパロディ小説群は、失踪した女子大学生(どう考えても、私が講師をしている横浜市内の某女子大学がモデルなんだよな…。)がウェブ上からダウン・ロードし、「フロッピー・ディスク」上に保存していたもので(しかし、今時、そんな事をするだろうか?「ハード・ディスク」というのなら分かるのだが…。)、これがその女子大学生失踪事件の真相に近づくための鍵ではないか、という展開になるのだけれど、結局鍵を握るのは一編のみ。そうなのだ、他の21編は一体何のために存在しているのか、良く分からないのである。私などは、各短編の作者名だの、題名だのの頭やお尻の文字を繋げたら、とか何とか色々な事を考えてしまいましたよ。トホホ。上巻に含まれる第13話の奇数ページに付けられたヘッダが、全て「12.Pair Jewels/Pair Lovers」になっている所何ぞは、「極めて意味深だ。怪しい。」と思っていたのだが、ただの誤植なのですね。そうそう、この本、大変誤字が多い。例を挙げると、「貝繁村」と「貝茂村」が混在していたりする。これは、第20話「ALiS」への伏線か、などと考えてもみたのだが、やはり単なる誤植のようだ。ちなみに、この第20話にしても、今時のワード・プロセッサ・ソフトでこれほど迄の変換ミスが起きる事はないでしょう、というイチャモンも付けておきたい。第20話の執筆者は計算ずくでこれが出来る状態にない訳だしね。

最後に、蛇足ながら、第21話では、冒頭のメタ・ミステリ的展開を、中途半端に放棄し、ごく普通のパズラーに収束させているのは、とても惜しい。本書は著者初のメタ・ミステリ作品とも読めるのだが(自著への言及が頻出するという点で。)、基本的にメタ・ミステリが余り好きではなさそうな同著者の嗜好が、この辺りに垣間見えるのであった。(2000/11/06。2002/02/18に若干修正。)