柳瀬睦男・村上陽一郎・川田勝編『日常性のなかの宗教−日本人の宗教心−』南総社、1999.1
本書は去る1998年9月22、23日に開催されたシンポジウム「日本人の宗教心の深層」の記録である。参加者は司会の村上陽一郎を始めとして、加賀乙彦、河合隼雄、谷泰、土居健郎、中村雄二郎等といった錚々たるもの。ただ、第一章「日本文化と宗教」における河合、中村、谷の発題とそれに関する議論は、こういう大御所達によるものにありがちな一般論に終わっているし、第一章を含めてその後の第二章「日本人の精神性と宗教心」、第三章「布教の現場から」、第四章「日本人の宗教心の深層」全てを通じて、単純な西洋/東洋という二分法に貫かれており、そこでは「日本では何故キリスト教がここまで広まらないのか?」という「日本人の宗教心の深層」などというとんでもなく大きな問題を考える上ではさほど重要ではないと考えるモチーフが呪文の如く繰り返されることになる。こうなってしまったのも、ひとえに参加者の多くがクリスチャンであることに起因するように思うのだが(なお、第三章では日本国内でのキリスト教布教の具体的な事例が示されていて、なかなか面白かった。)、それならいっそのこと、シンポジウムのタイトルも「キリスト教と日本文化」なり、「日本人とキリスト教」みたいなものにした方が、問題とすべき事柄がはっきりして良かったのではないかと思う。そうであれば、第三章で挙げられたような具体例をたたき台にして、お歴々がコメントを加え、更に議論を深める、という私が考えるところの理想的な形で進行していったのではないだろうか。もう一つ気になったのは、一人も宗教学を専門にしている論客が参加していないことである。邪推するところ、実は昨年9月22、23日の丁度一週間ほど前に日本宗教学会学術大会が行われていて、折り合いがつかなかったのかも知れない。そもそも呼ぶ気がなかったのかも知れないけれど、これは本当に「邪推」である。それにしてもやはり、専門家の意見がないというのは寂しいものである。以上。(1999/02/12)