久保田展弘著『日本多神教の風土』PHP新書、1997.8
通俗に徹した「日本の宗教文化」論である。何しろ話が一般的過ぎる。それはともかく、どうやらこの著者、『記紀』などの古文書によって、「アニミズム」なり「多神教」なりを、「日本人」が古来から持ってきたことを実証可能なものと考えているようだ。しかし、柳田國男編の『石神問答』みたいなもののなかですら、『記紀』その他の古文書なり、それらの注釈書なりの記述を鵜呑みにして良いものだろうか、なんていう議論がなされていたことをこの著者は知っているのだろうか。そもそも、この人のいう「日本人」というのは誰のことなんだろう?「単一起源論」に立つんだろうか?それはそれで根拠がある、と言いたいのなら、それに対する批判について一言も述べていないのはまずいだろう。ユダヤ・キリスト・イスラム教的一神教と、ヒンドゥ・アジアの民族宗教的多神教を対比させるなどという今更何を、という感じの紋切り型には失笑させられたし、自然崇拝を根底に持つアニミズムこそが、世界的な近代化の結果として起きた環境破壊に対する警鐘を与え、豊かな未来を築くために重要なのだなどという根拠がよく分からない常套句は不快感すら感じさせられるものであった。著者略歴に様々な宗教文化を持つ国々を「フィールドワーク」してきた、などと書かれているけれど、本書を読む限り、単に各地の寺社仏閣その他の宗教スポットを訪ね歩いただけなのではないかと思われて仕方がない。そういうのは「フィールドワーク」とは普通呼ばず、正しくは「観光旅行」なんじゃないの?などと、邪推してしまうのであった。(1999/02/05)