Adrian Vickers著 中谷文美訳『演出された「楽園」 バリ島の光と影』新曜社、2000.11(1989)
オーストラリアのアジア史学者Adrian Vickersによる、非常にレヴェルの高いバリ島史である。本書においてこの著者は、16世紀の黄金期から、西欧列強・東インド会社その他による植民競争、20世紀初頭の王国滅亡、その後20世紀前半のオランダ・日本による植民地支配と、インドネシア共和国傘下に組み込まれた20世紀後半を経て、要は西欧人とバリ島人の共同作業によって「最後の楽園」としてのバリ島がそれこそ「演出」ないし原題A Paradise Createdに従えば「創出」されていくプロセスを克明に記述していく。
永淵康之が『バリ島』(講談社現代新書、1998.3)という書物を上梓しているのは既に本欄でも紹介した通りだけれど、結局同書で述べられた諸々の事柄は、Vickersによるこの書物において既にほぼ出尽くしていた、ということになる。更には、量的にも分厚い本書の方が、バリ社会・バリ文化の変遷を知るには好適である、とさえ言えるだろう。手軽さでは永淵本をお薦めするが(値段は5分の1程度)、より深くバリ島史を知りたい方には、やはりこちらをお読み頂きたいと思う次第。以上。(2002/01/04)