島田荘司著『ロシア幽霊軍艦事件』原書房、2001.10
本八幡駅前のBOOK OFFで購入。幕張にも出来ないかな、などと思いつつ読了。それはともかく、本書は名探偵・御手洗潔シリーズに属する長編。本格ミステリというよりは、ややジャーナリスティクな形の歴史ミステリともいうべき作品に仕上がっている。御手洗シリーズとしてはやや異彩を放つものと言えるかも知れない。
話の発端は、箱根は富士屋ホテルに長らく置かれていた「ロシア幽霊軍艦」の写真。これがどうやら大正8(1919)年に撮られたもので、写っているのは芦ノ湖に浮かぶロシアのものとおぼしき「軍艦」とロシアおよび日本の軍人達。その正体はいかに?、というもの。
かくのごとき如何にも島田荘司らしい「奇々怪々」な幕開けで始まる物語は、正史の上では所謂ロシア革命下のどさくさで殺されたことになっているロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の第四皇女・アナスタシアが、実は生きていたのかもという、アニメーション(←なんて勉強になるサイトなんでしょう。)や映画(1956年に作られたハリウッド映画。邦題は『追想』。私も観たことがあります。尚、公式サイトはないようだ。)にもなった歴史上の一大仮説に結びつけられていくことになる。
先頃冤罪であることが確定した『三浦和義事件』(現在は角川文庫で読めます。)のような書物を著したこともある島田氏だけれど、事実関係を洗い直し、まとめ上げ、更にそれを推定・想像で補って一つの物語を作り上げる卓越した能力には圧倒される。まあ、それは措くとして、革命政権が崩壊しロマノフ王朝復活なんていう声も聴かれた(ような気がしたが…。)現在のロシア共和国その他周辺諸国の方々が、本書の結末部をどう読むか、という辺りには興味がわく。実際のところ、革命にしても戦争にしても、その裏で行なわれてきたことはその大部分がろくなものではなかった、と思うのだけれど、島田氏による描写は、もし本書がロシア語に翻訳され読まれた場合、大部分のロシアおよびその周辺諸国人からは相当な怒りを買うものかも知れない、と述べておこう。詳細は記さないが、例えば日本の皇室がこういう目にあったら、なんてことを考えてみると良いかも知れない。それを文章で表現されるだけでも、結構気分が悪いのではないかと思うのだが…。勿論、そういうやんごとなきお方達ではなく、名もなき者たちであっても事態は同じではあります。以上。(2003/05/01)