鈴木光司著『シーズ ザ デイ』新潮社、2001.04
大胆にもノーベル賞作家Saul Bellowの小説と同名のタイトルを持つ鈴木光司による海洋小説。しかし、その出来映えは、これまでの鈴木光司作品をほぼ全て読んで来た私にとっては誠に不満足なものであった。

さて、本作品が持つ最大の欠点は、著者自身が「あとがき」424頁で述べていることがらに引きつけて言うならば、「半分ぐらい」読み(原文では「書き」)「進んだところで、ラストが見えて」しまうところにある。分かりやすいと言えば聞こえが良いけれど、何とも単線的な物語展開には、ややあきれてしまった次第。

それは置くにしても、各登場人物の設定や台詞その他も薄っぺらこの上ないし、ましてや、主人公のヨット乗り・船越達哉(何て安易なネーミング!!!)の元恋人が「月子」で、彼等の間に出来た娘が「陽子」などというのは、ほとんど「お笑い」の世界である。

加えてもう一点気になったのは、この人が基本的に個人のパーソナリティや、更にはその「運命」すらもが遺伝する(「親の因果が子に報い」、というやつですね。)、と考えているらしいことであり、まあ、それについてはこれはあくまでも小説内のみに妥当する便宜的な設定と考えれば許せるとしても、こういう血縁主義なり遺伝主義と見なしうるものが、20世紀前半においてホロコーストのような最悪の事態を招いたことについての深慮がなされていないことは本小説の重大な欠陥であると考える。

ということで。以上ボロクソに述べてきたが、これも私が鈴木光司という才能あるエンターテインメント小説家に期待しているからなのである。次回作では、どうか期待を裏切らないで頂きたいと述べて、この短評を終えることにする。(2001/07/31)