森博嗣著『四季 春』講談社ノベルス、2003.09
通称「S&Mシリーズ」の第1作『すべてがFになる』(講談社ノベルス、1996)と現時点での最終巻第10作『有限と微少のパン』(同、1998)に登場した天才科学者・真賀田四季(まがた・しき)の若き日々を描くことになるらしい4部作の第一弾。いわゆる「森ファン」ではない私には、これは、ちょっとばかり「ついていけない」感じ。要するに、S&Mシリーズの中心人物の一人・西乃園萌絵だの、その後に書かれた「Vシリーズ」の中心人物である瀬在丸紅子だのを登場させることで、両シリーズを結びつけて「森ファン」を喜ばせようというサーヴィス精神は分からないでもないのけれど、ここから読み始める方々には、そんなことは「なんのことやらさっぱり」分からないだろう。更には、本書で描かれる事件とその解決についても、既刊の独立した作品である『そして二人だけになった』(講談社ノベルス、2001)及び『女王の百年密室』(幻冬舎、2000)のトリックを合わせたようなもので、これらを読んでいないと「何でこんな解決で良いの?」という疑問がわき上がることになりかねない。まあ、この本を愉しむために、既に大半の文庫化がなされている二つのシリーズその他を買ってくれ、ということなのかも知れないが、それは、「ううむ…」である。ちなみに、本書で克明に描かれる天才・真賀田四季の天才振りも常軌を逸したもので(というか、これは絶対にあり得ない。)、一応人間の頭で理解可能な形での、「何らかの事件とその合理的解決の記述」がなされることが前提となっているはずの本格ミステリというジャンルに属するS&Mシリーズの主要登場人物が、ここまで現実離れした設定というのもどうかと思う次第。てなわけで。(2003/09/11)