京極夏彦著『百器徒然袋 ―風』講談社ノベルス、2004.07
「京極堂」シリーズの存在感が強すぎるサブ・キャラクタである榎木津礼二郎を主役とする「薔薇十字探偵」シリーズ中編3本からなる作品集。後ろの2本は京極堂・榎木津グループと羽田製鐵の会長・羽田隆三とその一味との対決、という構図がくっきりと表われたもので、それもあってか悪党が「神」にも等しい榎木津の前にうち負かされる、という基本的に勧善懲悪を旨とするコメディ、というスタイルを取っている。まあ、それだけではないのだが…。中善寺秋彦の登場スペースもかなり多く、「招き猫」だの「秦の川勝」だのに関する蘊蓄も満載。といった具合で、実に充実した読書時間を満喫できる一冊である。以上。(2004/10/01)
二階堂黎人著『魔術王事件』講談社ノベルス、2004.10
『悪魔のラビリンス』(講談社文庫、2004.6(2001))に続く蘭子vs魔王ラビリンスもの大長編。江戸川乱歩的な怪奇趣味と、横溝正史的な複雑きわまる家族・親族・血縁関係を縦横に用いて、意外な犯人、様々なトリック等々を織り交ぜた巨大な作品となった。第二次世界大戦時の人体実験だの、徳川家の埋蔵金を巡る謎だの、C.ディケンズによる未完の遺作『エドウィン・ドルードの謎』に新解釈を加えるなどといったサーヴィス盛りだくさんなこの作品、本格中の本格を求める読者からはキツイ言葉も出てくるのではないかと思うのだけれど、これはこれとしてエンターテインメント作品として一級品なのではないかと考えた次第。以上。(2004/10/01)