田中克彦著『ことばとは何か ―言語学という冒険』ちくま新書、2004.04
「最近の新書2003年冬」に記載すべき新書がないままほぼ「2004年夏」まで来てしまったが、このローペースは今後も続く見込み。それは兎も角、本書は病気治療のためしばらく一線から退いていた尊敬すべき言語学者・田中克彦が書き下ろした啓蒙書にして、実に啓発的な内容を含む言語学史の概説本。ソシュール(Saussure,F.de)・チョムスキー(Chomsky,N.)ともに基本的には言語の共時性あるいは不変性を強調する、というかそういう観点から言語について論じる訳なのだが、これは<実際に変化するもの>である言語を見ている我々にとってはどうも受け入れがたい観点で、それでは何故大御所二人がそういう論点に行き着き、ではひるがえって言語を変化の相のもとに捉えようとする言語学というものはあるのか、というあたりをコセリウ(Coseriu,E.)という言語学者を紹介しつつ描き出そうとするのが本書の骨子。言語というものは、国家や歴史といったものを抜きに語ることは出来ない、という著者の一貫した研究態度には、私自身兼ねてより多大なる賛同を表して来たのだが、再びその認識を深めた次第。以上。(2004/06/03)