山田正紀著『未来獣ヴァイブ』朝日ソノラマ、2005.08(1985-1988)
1985年から1988年にかけてソノラマ文庫で4冊本として刊行され、結局未完に終わっていた『機械獣ヴァイブ』を1冊にまとめて大幅加筆したもの、ということになる。ほぼ700頁に及ぶ長大な物語の概要を示すなら、吉備地方は岡山市(本文ではO市となっている。)に住み、やがて東京に上陸し破壊行為を行なうことになる謎の巨大怪獣=「ヴァイブ」を目覚めさせることになる少年・北条充と、その仲間達・敵達との出会い・交流・対決その他を描いたもの、ということになる。要するに初代『ゴジラ』と平成『ガメラ』シリーズを合わせた様なもの、と言うと分かり易いかも知れない。
一切の攻撃を受け付けない巨大怪獣による破壊行為というSF界ではキワモノ扱いされがちなテーマに、吉備地方に伝わる伝説や日本神話の深層といった伝奇的要素をうまく重ね合わせ(深読みするなら、本書の元ネタというか元型=アーキタイプは基本的に「桃太郎」である。)、ここまでだと上記2大怪獣物とさして変わらないものになってしまうところを、「時間移動」及び「神々の対決」といういかにも山田正紀らしい要素を持ち込んで昇華させた作品と言い得る。キメラ的だ、という批判もありそうだが、キメラ的なこともまた怪獣と呼ばれるものの特長の一つなのである。本書は怪獣なるものを描こうというよりはそれ自体で体現しようとしたもの、というようにもとれるのではないかと思う。あくまで私的な読みだけれど。
さてさて、大変楽しく拝読したのだが、実は良く分からない点が一つあって、それは序盤からヴァイブを目覚めさせようという動きの中心にいた筈のタケルという少年が、終盤ではどうやらその復活を阻止しようとしているとしか思えない動きを見せている、ということ。この少年、結局何がやりたかったのだろうか?長きにわたって封印されているヴァイブを本当の意味で退治=消滅するためには一回中途半端な形で復活させないといけない、と解釈しているのだが、この辺り、やや判然としない。ヴァイブが何故20世紀終盤という時期に目覚めたのか、という点について作者は意図的にその目的などを記述せず、つまりはヴァイブには何も語らせず、そうすることでその神格化を狙いそれに成功していると思うのだが、良く喋るキャラクタであるタケルの目的が最後まで良く分からないのは一読者としてかなり気持ちが悪いのであった。以上。(2005/10/16)
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