荒木スミシ著『シンプルライフ・シンドローム』555、1997.1
『絶対音感』と同じく、幕張の某古本屋にて入手。しかし、自主制作でそんなにたくさん刷っていないはずの本書がこんなところで手に入るとは考えもしなかった。といっても、何のことだか分からない方にご説明申し上げると、本書はどうやら昨年上半期に神戸市で起きたある中学生による連続傷害・殺人事件のヒントともなったという説がまことしやかにささやかれた代物なのである。確かに、あの中学生が用いた重要なフレーズである「透明な存在」に見られるのと同様に、「透明な」とか「透明に」なんていう表現が随所に見られるし、「生まれることと死ぬことは同じこと」みたいな表現にしても、頭部への偏執的なまでのこだわりもそれなりにあの一連の犯罪行為に影響を与えたのかも知れないけれど、押収物リストなり蔵書目録なりを見ていない私にはこれ以上のことは言えない。
そういう事情は度外視して、一読した感想を述べたい。筆者自身があとがきにも記している通りに、村上春樹の影響が濃いな、という印象を冒頭から感じつつ読み進み、読了した段階では、「本書のアイディアは村上の最高傑作『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』そのままではないか」、とやや呆然としてしまった次第。とは言え、村上とは比較にならないくらい文章は拙いし、何よりも先ず構成力が欠けるためなのか、何だかもやもやとした感じが残るくらいで、作品を読み終えた、という気にならないのであった。回りくどい言い回し、恐らく著者自身にとっては「かっこいい」と考えられているらしいけれど、私には一抹の気恥ずかささえ感じられてしまう言い回しが頻出し、そんなものにいちいち付き合っていられないのでプロットだけをそれこそ「斜め読み」ではなく「横読み」してしまいました。吉本ばなな並に軽い文章で、実のところ読了から4日くらいたっているけれど、上に書いた以外の何の感想も残っていない、というのが本音である。(1998/08/29)