池澤夏樹・文 本橋成一・写真 『イラクの小さな橋を渡って』光文社、2003.01
「あとがき」の最後に「まだ戦争は回避できるとぼくは思っている。」(p.81)と書かれているのだが、その言葉もむなしく、先頃イラク共和国民の人命とインフラストラクチャへの大規模かつ最終的な破壊行為=「戦争」(あれは「戦争」なのだろうか?)が行なわれ、本書が言う「もし本格的な戦争ということになれば、イラクという国はろくな反撃もできないままに崩れてゆくだろう」(pp.62-63)という言葉通りに、あっという間に終結を迎えたのはメディアを通じて誰もが知る事柄。
本書は、その「戦争」に向けて緊張が高まっていると思われていた時期(2002年10月末から2週間ほどらしい)に、「遺跡を見る」ことを主目的としてイラクを訪れた著者が、『月刊PLAYBOY』2003年2月号に載せた記事をベースとして単行本としての体裁を整えたもの。
大部分のメディアが見せてきたのとは裏腹に、実際にそこに行ってみると、確かに1991年の「湾岸戦争」(あれもまた、「戦争」だったのだろうか?)以来絶え間なく続いている経済制裁や爆撃その他により、確かにじわじわとその「身」を削られてきたこの国ないし国民が、思いの外豊かな食事をしていること、緊張感はさほど強いものでないこと、等々が見えてきたのだそうだ。
そのことを具体例を持って示しつつ、更に進んで本書が強調するのは、アメリカ合州国大統領により「テロ支援国家」と名指されたイラク共和国に住む人々は、実のところ我々と同じ普通の人間なのであり、彼等、中でもそこに住む子ども達を殺して良い理由などどこにも存在しない、ということに尽きる。
コンパクトな書物ではあるけれど、大変感銘を受けたと同時に、こういうものはもっと広く読まれてしかるべきではないかとも考え、ここに紹介した次第。まずはご一読の程。なお、本書巻末には20世紀初頭からのイラク情勢を示す年表が付されているのだが、これは「爆弾はいらない 子どもたちに明日を」というウェブ・サイトを参照した、とのこと。興味のある方はこちらも是非ご覧下さい。(2003/06/05)