橋本和也著『観光人類学の戦略 文化の売り方・売られ方』世界思想社、1999.04

早いもので、西暦2001年が終わってしまう。書評欄が埋まらぬまま、年を越すことになるけれど、この頃に刊行されたものも、重要な著作については随時アップしますのでよろしくお願いします。
それは置くとして、本書はそれに関する体系的な書物が今のところわずかしか存在しない「観光人類学」の今日を伝える良著である。著者は「観光」を、「異郷において、よく知られているものを、ほんの少し、一時的な楽しみとして、売買すること」と定義し、例えば「巡礼」を「観光」とみなすようなこれまでの「観光人類学」者の研究のあり方が、「観光」そのものに焦点が合わされていない、と批判しつつ、先述した定義通りの「観光そのもの」に目を向けるべきことを提唱する。そしてまた、「巡礼」・「政治・経済」・「民族」・「文化の真正性」といった、「観光」そのものとは本来関係のない他の問題群と切り離す作業を行ないながら、「観光」なるもの自体が孕む問題群に果敢に取り組んでいる。
さて、「観光」についての「人類学」的な研究を意味するはずの「観光人類学」という語は、当然のことながらそれが、一つの文化・社会事象、例えば「観光」を、それが行なわれている社会・文化・歴史的コンテクストの全体的把握に基づいて考察していくものであることを示しているのだろう。となると、一言「観光」といっても、それに付随する上記のような本来関係のない事柄との関係の中で考えなければならないわけなのだが、著者に言わせれば、それを行なうにはひとまず両者の切り離し作業が必要で、それを経てようやく両者の「関係」という、まさしく人類学がその解明を目指すものの分析に入れる、ということになるのであろう。本書で行なわれていることはまさにそのような作業で、それがタイトルにある「観光人類学の戦略」、ということになる。
なお、各章毎に異なるテーマが取り上げられており、紙数の関係もあってかそれぞれに関する考究がやや浅いような気もするものの、そのような「広く浅く」ないし総覧的なスタイルを恐らくは「戦略」的にとった本書は、専門書ではなくあくまでも入門書ないしは導入書としての使命を十分に果たし得る書物である、と述べて本年のウェブ評論は終わりにしよう。(2001/12/31)