船曳建夫編『文化人類学のすすめ』筑摩書房、1998.3
本書は、文化人類学の研究成果や今後の課題について網羅的に記述してあるような、つまりはいわゆる教科書ではなく、大まかに言えば各研究者が各々の文化人類学観を語る、というようなスタイルをとっている。「植民地時代の落とし子とも言える文化人類学がポスト・コロニアリズムやカルチュラル・スタディーズからの攻撃にさらされて、学問としての存立根拠が危ぶまれてはいるのだが、それでもなおかつまだまだ可能性のあるものなのだ。」、というような論旨の文章が繰り返されるため、いささか退屈してしまったのだが、田中雅一(「ヨーロッパの文化人類学」)、清水昭俊(「日本の人類学」)、山下晋司(「文化人類学をバージョンアップする」)の各論考はなかなかに示唆的であった。ただ、私が危惧するのは、日本の社会学が陥っているような、内省の学への没入、すなわち自己の存立根拠を問い続ける事が社会学の営みなのだ、というような雰囲気の蔓延が感じられるのだが、本書の幾つかの文章にも、そうした「内省」あるいは「反省」の気分が充満していて、何か違和感を覚えてしまった。そういうことは考え出せばきりがないのだから一度行えばよいのであって、われわれ文化人類学に携わるものにとっては、どんどん資料を積み上げ、それを提示していく事こそが現在必要な事なのではないかと考えるのであるがいかがであろうか。(1998/04/22)