岩井宏實著『旅の民俗誌』河出書房新社、2002.03
信仰の旅、河川・海上の旅、陸路の旅、商人や出稼ぎ人の旅等々、日本列島に住む人々が、古来行なってきた移動行為を、網羅的なやりかたかつ平易な文体で説く教養本。今日の「旅」なる語は、ほぼ全面的にリクリエーションとしての「観光」という意味で用いられるようになってしまったかに見えるのだが、もともとは信仰上あるいは商売目的で行なわれる移動行為・現象を指していたのは自明の事柄。それが、どこで「観光」に取って代わられるのかが、民俗学なり人類学なりが明らかにすべき一つのテーマだと思う次第なのだけれど、本書はそこまでは踏み込んでいない。まあ、それは無い物ねだりというべきもので、かつまた、それこそが我々に課せられた使命なのだな、とふと思いつつ、読了したのであった。以上。(2002/09/07)