佐々木高明著『日本文化の多重構造』小学館、1997.3
佐々木高明の一連の著作の集大成とも言える書。考古学や人類学の最新データをもとに、「照葉樹林文化」「ナラ林文化」「焼畑農耕」「稲作」等をキーワードとして「日本文化」の多重性を明らかにしようという試みである。極めて丁寧に書かれており、やや冗長なところもあるとはいえ、入門書、あるいは教科書としても優れているように思う。
気になったことを一つだけ述べるならば、それは終章における「多元的で多重な構造を有し、多様な文化に柔軟に対応することが可能な日本文化は、東南アジアの諸文化などとともに、来るべき二一世紀の多文明社会に容易に対応できる、すぐれた価値体系を有する文化だと考えることができるのである。」(p.325)というような記述である。確かに「日本文化」の基礎構造が多元的で多重なものであるとして、それを認めるのはやぶさかではないのだけれど、本書でも触れられている通りに特に近世から近代にかけて「日本文化」の画一化はかなりの程度まで進んできてしまっているわけで、そうなると21世紀を担うという多元的で多重な「日本文化」とは今日において一体どこにあるのか、佐々木をはじめとする「日本文化」研究者の頭の中にしかないのではないか、という疑問を抱かざるを得ない。
勿論、同じく終章に見られる安易な西欧近代主義批判は論外で、それと対比しての同じく安易な「日本文化」の称揚は、感情的で感傷的なナショナリズムに堕しているのではないかということを述べておきたい。それ以前に、そもそも多元的で多重な基礎構造を持たない文化など存在するのだろうか?あくまでも自然人類学あるいは民族学の領域に属する研究書として世に問うたものだとすれば、こうした価値論は不要だったのではないかと思うのだがいかがだろう。(1997/02/04)