藤原伊織著『てのひらの闇』文藝春秋、1999.10
寡作作家・藤原伊織による、企業、暴力団、政治家それぞれの野望と暗躍を描いた比較的コンパクトなハード・ボイルド長編小説。主人公である飲料メーカの隠れ武闘派宣伝課長が、当該企業会長の自死を巡る謎を追う。頭から終わり迄一気に読ませるストーリー・テリング能力と、生き生きとした人物描写は誠に見事なものだ。著者自身が日本最大の広告代理店社員であることによる、バブル崩壊後の業界内部事情の記述は暗澹として切実であり、かつまた極めて緻密。大変勉強になった。やはり、実務経験は人が生きる上における最大の宝である。なお、本作品の元ネタは、1970年頃に作られたJack Nicholson主演映画である。原作は確かハード・ボイルド界の大巨匠R.Chandlerだったと思う。そんなところで。(2001/05/03)