新井素子著『チグリスとユーフラテス』集英社、1999.2
滅びゆく植民惑星「ナイン」の終焉を描いた諦念と希望に満ちたSF大作。〈子供が産まれなくなる〉だの、〈人類には未来はない〉だのといった設定はSFではおなじみのもので、特に目新しいものではない。とは言え、〈生〉と〈死〉、更には人類という〈種の終わり〉という問題について、その結論(要約すれば、〈死ぬこと〉や〈滅びること〉が分かっていても、〈生〉には意味がある、ということである。)は至って素朴ではあるけれど果敢に挑んだ著者の努力は素直に認めたい。取り敢えず、私のようなひねくれ者を除く多くの読者にとっては、感動的な物語なのだろうと思う。

ところで、私はこの人の本を殆ど読んでいないのだが(これで2冊目。)、今後も恐らく接する機会は少ないだろう。理由は簡単である。それは即ち、文章が余りにも拙(つたな)い、ということ。何しろ、読んでいて恥ずかしくなってくるのだ。私にはこういうのが最も耐え難い。細かく言うと、地の文と台詞の部分の文体位はきちんと書き分けて欲しいし、更には、書き手(超越的な立場に立つ物語の記述者。)と語り手(一人称で語り紡ぐ物語内存在。)の交錯は誠に見苦しい。他にも、〈長過ぎる〉(上下二段組で488頁もある。)、だの、〈登場人物が幼稚過ぎる〉、だのといった難点もあるのだが、この位にしておく。

蛇足になるが、「チグリス」というカタカナ表記は、余りにも広く流通しており、教科書でも用いられている程なのけれど、恐らくは「ティグリス」の方が正しいと思う。但し、現地(イラク周辺)でどう発音されているのかは不明である。英語では「タイグリス」と発音する。「ユーフラテス」については問題ないだろう。まあ、これは新井素子の責任ではない。英語圏に行ったら、間違っても「チグリス」などと言わないように心掛けねばならない。(2000/12/23)