村上春樹著 『約束された場所で−underground2-』文芸春秋、1998.11
地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー集『アンダーグラウンド』に続く、オウム信者へのインタビュー集である。前著の面白さは、被害者のそれこそ「多様性」にあったように思うのだけれど、今回は登場する信者が8名と極めて少数の為かも知れないが、一人一人にほとんど個性というものが感じられなかった。だからこそ同じ教団に入信したのだとも言えるのかも知れないけれど、そうであるとすれば、彼らの発言なり、入信プロセスから、共通項を見つけていくことが、読者に課せられた作業として残されたのかも知れない。それというのも村上氏自身は、兎に角真摯な態度で彼らと対話し、それを文章化することにほとんど全ての力を注いでいて、(個人的にはそれはそれで誠に「正しい」態度だと思うのだけれど)、そうした分析をほとんど放棄してしまっているからである。
しかし、これだと、「余りにもオウム寄りだ。」という批判が殺到するのだろうな、などと思ってしまう。そういう方々に対しては結局の所、前著と併せて読んで頂くことを勧める他はないようにも思う。ただ、村上氏の仕事として、もう一つ、「幹部クラス」の人達へのインタビュー集が是非必要なのではないかという注文を付けておきたい。幹部ではない信者へのインタビューによって構成された本著作の記述の中で気になって仕方がなかったのは、彼らが繰り返し、「幹部と自分たちは違う」といことを強調していることなのであった。その違いとは何なのか。どうやらそれが地下鉄サリン事件を「理解」する鍵のようなのだが、刑務所内にいる幹部たちの発言は、調書や裁判記録という物凄く限定されたコンテクストの中で発せられたものであるので、「本心(そんなものがあるとしてだけれど。)」にはほど遠いだろう。その辺が一番知りたいところなのだけれど、難しいのかも知れない。出所してから、ということになるのかな、などと、そろそろ出所し始めるのだろう実行犯以外の幹部たちの動向が気になる今日この頃なのであった。(1998/12/05)