松浦理英子著『裏ヴァージョン』筑摩書房、2000.10
極めて寡作な同著者による久々の長編小説。但し、形式としては、連作短編の形をとる。これら短編小説の書き手と読み手が登場し、論争し、しまいにはどちらがどちらなのか判然としなくなっていく、というメタ・フィクショナルな構成。『親指Pの修業時代』などという途方もない文学史上に残る偉業達成後の作品としては、やや物足りなかったのだが、一応新境地、と言えるだろう。私見ではこの作品において松浦は、文体・テーマ共に笙野頼子に近づいているような気がするのだが、気のせいだろうか。本作における、主人公が小説を書く報酬として部屋を貸して貰っている家主のモデルって、まさか…。(2000/12/23)