ピアーズ・ヴィテブスキー著 岩坂彰訳『シャーマンの世界』創元社、1996.11(1995)
少し前に出たこれまたシャーマニズム研究書の一つである。ただし原著の発表がミハーイ・ホッパールの『シャーマニズムの世界』よりも後なので、こういう順序で並べてみた。ピアーズ・ヴィテブスキーはケンブリッジ大学のスコット極地研究所社会科学部長ということなので、苗字からするとポーランド系かな、とも思うのだがとりあえず研究の場所は英国においている事になる。そのためかホッパールとは随分研究スタンスが異なっていて、博物学的に資料を並べるのではなく、シャーマニズムやシャーマンの社会的機能に関する記述が随所に見られるのが印象的であった。基本的には「シャーマン」という言葉の出所であるシベリアのシャーマニズムをプロトタイプとしつつも、北米や南米の他界遍歴が余り明確でない宗教職能者や、日本の霊媒に関しても「トランス状態を操る」(p.10)という意味で、一応シャーマンの範疇に入れており、ヴィテブスキーのシャーマニズム観は日本の佐々木宏幹氏のシャーマンやシャーマニズム観にもかなり近いと言い得るだろう。本書もまた図版が大量に用いられていて、もはや図版なしの民族誌なり、シャーマニズムのような装飾性の極めて強い宗教文化の紹介は不可能なのかも知れないと考えることしきりである。なお、近年北米を中心に「ネオ・シャーマニズム」というものが恐らく「ニュー・エイジ」運動の一部として隆盛しているのだが、著者の視点はそうした動きに対してやや懐疑的であるということも付け加えておきたい。「ネオ・シャーマニズム」については、日本における「修験道」的な修行の隆盛とも一脈重なるところがあるので、将来的には考えざるを得ない問題になるのではないかと思う。「ニュー・エイジ」や「新霊性運動」まで視野に入れねばならないので、大変な作業になることが早くも予想されてしまうのだが、いずれ、シャーマニズムや修験道の研究から得た知見から、そうしたものに対する私なりの見解を提示したいと思う。ご期待下さい。(1998/04/22)