金成陽三郎作 山口譲司画『ミステリー 民俗学者 八雲樹』集英社ヤング・ジャンプ・コミックス、2002.05-
『ヤング・ジャンプ』というコミック誌に、2001年の終盤あたりから連載が開始された純然たるコミック。現時点で第5巻まで出ているけれど、取り敢えず第3巻まで読了。
タイトルがここまであからさまに内容を示していなければ手に取ることもなかったと思う作品なのだけれど、内容はまさにその通りの、某大学で助手をしている若手民俗学者・八雲樹(やくも・いつき)を主人公とするミステリ。第3巻までに扱われたテーマは「天狗」、「かぐや姫」、「コロボックル」、「山姥」の四つ。まあ、誰でも知っているものばかり、といってしまえばそれまでなのだが、掲載されているのが売れないことには困る青年コミック誌という制約もあるのでそれは致し方ないところ。
小説なら中編くらいの長さを持つそれぞれの挿話においては、上に述べたようなテーマを基調とし、民俗学の蘊蓄をそこそこに散りばめつつ、いわゆるご当地ミステリ的な物語展開がなされることになる(実際に存在する土地を舞台にしていないところが、ご当地ミステリとは一線を画す点。)。でもって、ここで取り挙げている理由は<この作品内で開示される民俗学の蘊蓄が優れているから>、ではなくて、<この作品のミステリとしての出来映えが見事なものであるから>、である。(まあ、「民俗学の蘊蓄がどうのこうの」、と言い出したら、すでに研究者を超えてしまっている観さえあるあの京極夏彦にかなうわけがないのだし…。)
確かに、例えば第一挿話「天狗」篇にみられるように、<遺言における筆跡問題の無視>という、やってはいけないことをやってしまっていたりもするのだが、そんなものは大したことではなく(「ワード・プロセッサを使ってますね。」、と一言いれれば済むことだしね。)、全体として本格ミステリとしての水準をきちんと満たして余りある作品集となっていることを述べておきたいと思う。
実は、小説という表現形式では、例えばトリックの解説みたいなものは大部分テクスト内で行なわねばならないわけで、そこが作者の最も苦労するところだったりするかと思い、かつまたその辺りがいまいちスッキリ書かれていない作品がたくさんあるようにさえ思うのだが、コミックという表現形式は視覚的にそれを展開できるというメリットを持つ。とは言え、それを活かせるかどうかは作家の腕次第なわけで、要するにこの作品で扱われているトリックのアイディアもさることながら、主人公・八雲によるその説明の見事なまでの分かり易さには、感服した次第。まことに見事な手腕である。
以下、蛇足。挿話毎に人類学者にして民俗学者の小松和彦氏がそれぞれの挿話で扱われている民俗事象に関する解説を書いていて、多分参考になる。といっても、私は読んでいない。理由は簡単で、「漫喫」という場所を利用している関係上、時間がもったいないからである。まさに、時は金成(かねなり)。おあとがよろしいようで…。(2003/06/22)