村上春樹著『1Q84 Book3』新潮社、2010.04

昨年刊行され大ベストセラーとなった作品『1Q84 Book1&Book2』の続編。今回は青豆と天吾が迷い込んでしまった「1Q84年」の10月から12月という時間内で生起する出来事を綴る。
前段でとある宗教教団教祖を殺害することに成功した青豆。それを受けて青豆探索に乗り出す教団。使われることになるのは前作でも異彩を放っていた牛河。徹底してプロフェッショナルな探偵・牛河はその特殊な嗅覚で青豆に接近していくことになる。それと平行して、天吾は、父との最期の時間を房州で過ごしていた。二人は果たして巡り会えるのか、そしてまた、リトル・ピープルや「1Q84年」の謎は解き明かされるのか、というお話。
構成が、Book1、2を踏襲しておらず、青豆と天吾の視点で描かれる章に加え、第3の視点として牛河の章を入れているのが新機軸。異形の超有能探偵である牛河の存在感が余りにも圧倒的すぎて、Book3の中核をしめるはずである肝心の恋物語が希薄になっている印象が否めなかったのだが、いかがだろうか。
そういうこともあるのだが、このBook3、全体として時間をかけていない印象が強い。つまりは、冗長であると同時に、情報量がさほど多くないのだ。例えば本書においては、青豆の読む本としてM.プルーストを引き合いにしているのだが、Book1におけるA.チェーホフほどの貢献を作品に与えていない。その他、前2冊で出てきた話をより分かりやすく解説しているようなところが多くて(特に世界設定に関して、だが。)、村上春樹らしいサーヴィス精神、ともとれるけれど、「もう良く分かったからそんなことより話を先に進めてくれ。」、と何度も思ったのは私だけではないと思う。
当然Book4が近いうちに出ることになると思うのだけれど、時間は1984(あるいは1Q84)年を超えて1985(あるいは1Q85)年に移っていく。青豆と天吾、そして「もう一人」の運命、消息不明な「ふかえり」は再降臨するのか、あるいは牛河は?、そしてまたリトル・ピープルとこの世界の関係はどうなっていくのか、等々、結構気になる点は多いのだが、是非冗長でない、必要不可欠なことしか書かれていない、そして文学的に意味のあるものを届けて頂きたいと思う。
蛇足ながら、本書は31の章からなっているが、その理由が分からない。Book1、2はピアノの旧約聖書『平均率クラヴィーア曲集』を意識した構成を持っていたのだが、それなら今回はL.V.ベートーヴェンによるピアノの新約聖書『ピアノ・ソナタ集』と同じ32章構成になるのかな、などという想像をしていたのだった。近いのだが微妙に足りない。何か意図があるのだろうか。意味のないことはしないはずの村上春樹なので、色々と考えてしまう。例えば、Book4は第32章でまるまる1冊、なんて言うのもあり得るかも知れない。以上。(2010/06/25)