Mike Nichols監督作品 『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』
古くは『卒業』(1967。原題はThe Graduate。)、近年では『クローサー』(2004)などで知られる押しも押されぬ巨匠映画監督の一人マイク・ニコルズ(Mike Nichols)が、トム・ハンクス(Tom Hanks)、ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)、フィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)という3人のオスカー俳優そろい踏みで挑んだ超豪華キャストによる実話に基づくコメディ映画である。
基本的に1980年頃からの話。冷戦がまだ続いていた時代、アフガニスタンにソヴィエト連邦が侵攻し、かの地を蹂躙。TVで見たり現地に赴いたりしてその惨状を知ったアメリカの下院議員チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)が、大っぴらにやると大戦争になる恐れがあることから裏予算を組んでアメリカの援助と察せられないような形でアフガニスタンに武器を供与し、多分その効果でソヴィエト軍が去っていくまでを描く。
実のところ、もっとメリハリのある、ウィットに富んだ会話を楽しめるような作品だと思っていたのだが、その点については期待はずれであった。方々にいい顔をし、ソヴィエト軍の鬼畜ぶりや共産主義の恐ろしさをあちこちで説いて必死で裏予算を組み、はたまた自分の薬物スキャンダル揉み消しに四苦八苦し、といった話が延々と続くのだ。
正直な話眠くなったのだけれど、実はこの映画、この監督の作品らしいところもあるにはあるのであり、言うならば余りに起伏のない展開のために途中で飽きてしまって最後まで観なかった人にはこれが風刺劇だということすら分からないある意味究極の一発逆転的な造りになっている。要するに、一見資本主義・自由主義礼賛、アメリカ万歳的なお馬鹿映画かと思いきや(まあ、そんなものをこの人が作るわけがないのだが…)、最後まできちんと観れば分かるように、この作品は基本的にアメリカのやってきたことを茶化す、あるいは冷笑するのが目的のかなりディープな風刺劇になっているのである。この映画を観たら、家に帰ってアフガニスタンを巡る一連の歴史的流れについて勉強し、自分にできることはないだろうかと一時考えこんでみる、というのが鑑賞者としての一つの正しい在り方ではないかと思う。以上。(2008/05/29)