中島哲也監督作品 『告白』
『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』等々により、高い評価を受けてきた中島哲也監督が、湊かなえの大ベストセラーを松たか子を主演に据えて映画化したもの。原作は、2008年度版「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、同じく2008年度の「このミステリーがすごい!」で第4位、そして2009年に第6回本屋大賞を受賞して話題になったもの。読んでいないのだが、この映画を観る限り、確かに面白い、と思う。
物語は、松たか子が扮する市立S中学校1年B組担任・森口悠子による、3学期終業式当日のHRでの衝撃的な告白から始まる。それは、数ヶ月前に死んだ自分の娘・愛美(まなみ)が、実はこのクラスの生徒2名によって殺されたこと、そしてまた、少年法により罰せられることがないことから、警察には報告しない、しかし、別の形でのより効果のある復讐をする、という宣告だった。森口が学校から去り、新学期が始まる。重い空気が流れるクラスに新任教師としてやってきた熱血教師の寺田良輝(岡田将生)は、何とかその空気を払拭しようと努力するが…、というお話。
原作はまず最初のHRの部分のみからなる短編=「聖職者」が書かれ、これが小説推理新人賞を受賞。『小説推理』に掲載されたこの作品は、湊かなえのデビュウ作となった。これを書いた当初は続編の意図はなかったそうだが告白以後を描いた5章が加えられ、最終的には長編の体裁を持つに至った、ということになる。
そんなことをわざわざ記すのには理由があって、この作品、やはりもともと「聖職者」という非常に良く出来た短編小説であった部分に相当する冒頭の場面の完成度が圧倒的なのである。この部分が余りにも素晴らし過ぎるので、他パートがやや見劣りしてしまうのは紛れもない事実、ではないかと思う。そして、要するに上のような経緯が、そこに影響していることは否めないのである。
とは言え、作品全体をトータルでみればやはり秀作の部類に入ることも間違いない。松たか子の存在感あふれる演技、そしてまた物語の面白さもさることながら、とりわけシャボン玉、鏡、ガラス、水滴、刃物、等々、「光を反射するもの」を随所にちりばめた映像が実に素晴らしい。RADIOHEADによる主題歌"Last Flowers"もこの作品の重苦しい世界観に実にマッチしているし、J.S.バッハ、G.F.ヘンデルの名曲や杉並学院合唱部が歌う"Long long Ago"などを含む他曲の選曲も見事。中島哲也の映画作家としての能力が遺憾なく発揮された傑作だと思う。以上。(2010/07/11)