Dan Brown著 越前敏弥訳『ダ・ヴィンチ・コード』角川書店、2004.05(2003)
ご存知物凄い部数が売れたしこれからも売れるだろう、『ハリー・ポッター』シリーズ以外では今のところ21世紀最大のベスト・セラー。原題はThe Da Vinci Code。何者かの手によって殺害されたルーヴル美術館館長が、死ぬ前に残した途方もないダイイング・メッセージの謎に、アメリカ人の宗教象徴学者ロバート・ラングトンとフランス人の暗号解読官ソフィー・ヌヴーの二人が挑む、というお話。まあ、それだけではないのだがそれは読んでのお楽しみ、ということになる。
基本的にはレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画にこめられた、一般に正統派とみなされているローマ・カトリックを代表とするキリスト教の流れとは異なる、そちらから見れば異端ということになる思想を巡る物語なのだけれど、話は所謂「聖杯」伝説を中心にそれとの関連の深いテンプル騎士団や、多分本当は存在しなかったんだろうシオン修道会という秘密結社や、こちらは現存するオプス・デイというカトリック教会の「属人区」なども巻き込んだ大掛かりなものになっている。ちなみに、上巻の最初のページに、「本書は全て事実に基づく」云々と書いてあるのだけれど、本書に書かれている「事実」というのが本当の「事実」のみならず捏造された「事実」も含んでいることにここでは注意しなければならない。「歴史は勝者によって作られる」云々、ということもどこかに書いてあったから、作者はその辺のことを充分自覚している、とも一応述べておこう。
まあ、そういうこともあるのだけれど、取り敢えずはとても読みやすく、話の展開もご都合主義的とは言え実にスピーディで面白いし(一晩でこんなにたくさんのことが起こり得るのか、という疑問は無いではないのだが…)、それなりに知的好奇心を刺激するし、主役二人を筆頭としてそのキャラクタ造形も良く出来ているし、アナグラムを多用した謎解きも大変緻密だし、などという何とも見事に色々な読者の期待に応えるための計算が随所に施された作品で、これは売れて当たり前だな、という感想を持った次第。大変な力量を持つ凄腕な作家である、と言っておきたい。
なお、この小説は来年5月にはその映画版が公開されることになっている。文字や記号を使った謎解きが話の中心なので、映画にするには若干外連(ケレン)味が足りないのではないか、と思うのだが、どう料理するのか楽しみなところでもある。監督は A Beautiful Mind (2001) を撮ったロン・ハワード( Ron Howard )。ラングトン役はトム・ハンクス( Tom Hanks )、ソフィー役はオウドレ・トトゥ( Audrey Tautou )、二人を追うフーァシュ警部はジャン・レノ( Jean Reno )と、どう考えてもこれ以外もこれ以上もあり得ないという配役。こういう人たちをイメージしながら読んでいたことを告白しておこう。以上。(2005/12/14)