ヴィム・ヴェンダース監督作品 『アメリカ,家族のいる風景』
このところとみに仕事量が増えてきた感じのヴィム・ヴェンダース( Wim Wenders )監督が昨年発表した作品。原題は Don't Come Knocking なのだけれど、どう見ても邦題の方がセンスが良いし映画の内容を端的に示していると思う。
脚本・主演ともサム・シェパード( Sam Shepard )で、この人が演じる有名な西部劇俳優(西部劇なんてもう作られてないだろう、と思ったんだが、今日においても意外にたくさん作られていることに気づいた。固定の主演俳優、というのは最早いないんだが…)が、撮影中にキレてしまって逃亡し母親のもとへと戻り、そこからさらに母親にその存在を知らされた息子と娘に会いに行くことになる、というお話。まあ、ロード・ムーヴィにしてホーム・ドラマであり、かつまた何ともだらしない中年男性の物語、といった感じ。
誰でも気づくことなのだが、この映画の原型というのは1984年にヴェンダース監督が作った、同じくシェパードが原作・脚本を書いた大傑作『パリ、テキサス』(Paris, Texas)ということになる。同じことを繰り返してどうするのか、という意見もあるだろうけれど、むしろ同じことを繰り返した映画監督の方が後になって高い評価を受けたりしている事実も存在する。『東京画』(1985)などという、小津安二郎へのオマージュとも言うべき作品も撮っているこの監督なのだから、そんなことは言うだけ野暮なのである。
まあ、さすがにあの奇跡とも言える大傑作には遠く及ばないのも事実な作品なのだけれど、かと言って悪い作品では全くなく、このところのヴェンダースによる映画の中では突出してさえいると思う。この監督、こういうシンプルなドラマの方が向いていることに早く気づいて欲しいのだが…。
それは兎も角、最後に付け加えると、基本的にT-ボーン・バーネット( T-Bone Burnnet )によるいかにもアメリカンな音楽はとても良いし、前作 Land of Plenty (2004)でも起用されたフランツ・ルスティク( Franz Lustig )によるモンタナ州等々といった場所場所での青い空(ついでながら主人公の娘の名前はSkyなのである。)を画面の中で有効に使った映像は見事なものだ。以上。(2006/03/03)