Neil Burger監督作品 『幻影師アイゼンハイム』
スティーヴン・ミルハウザ(Steven Millhauser)が書いた"Eisenheim the Illusionist"という題の短編を、主人公の幻影師アイゼンハイム役にエドワード・ノートン(Edward Norton)を配して映像化した作品である。監督・脚本を未見のInterview with the Assassin(2002)を撮った新鋭のニール・バーガーという人が務めている他、音楽はあのフィリップ・グラス(Philip Glass)が担当し、この作品において最も重要な要素である映像作りの中核であり、第79回アカデミー賞ノミネートという評価を得たシネマトグラフィにはディック・ポープ(Dick Pope)が当たっている。
まあ、勿体ない、というのが正直な感想である。同じ2006年全米公開の映画『プレスティージ』と話がかぶり過ぎなのだ。同じく19世紀を舞台とし、同じく奇術師を主人公とし…、といった具合に。これだけこの映画の公開が遅れたのも頷けるわけなのだけれど、あれだけインパクトの強い映画の印象は簡単には払拭出来ないわけで、さすがに「ああ、予想はしてたけどやっぱり同じような話だな…」となってしまうのである。
とは言え、こちらの趣向は『プレスティージ』のようなライバル間の争いを基調とするものではなく、端的に身分違いの恋、である。エドワード・ノートン演じるところの幻影ネタを得意とするマジシャンが、今はハプスブルク家の皇太子の婚約者になっている幼なじみソフィ(ジェシカ・ビール=Jessica Biel)と再開し、恋愛関係となり、それを皇太子に嗅ぎつけられ、という話。まあ、要するに三島由紀夫の『春の雪』、なのだけれど、何だかこの映画色々なものとかぶり過ぎだな、と思うのは私だけではないだろう。
かぶり過ぎではあるものの映画の造り自体は実に見事なもので、主要登場人物4人のキャスティングもジェシカ・ビールがちょっと野暮ったい(公爵令嬢には見えないだろう、と。)以外は殆ど完璧なものであり(ちなみに皇太子役はルーファス・シーウェル=Rufus Sewell、彼に頼まれてアイゼンハイム周辺の内偵などを行なう警部役にポール・ジアマッティ=Paul Giamatti。特に後者が素晴らしい。)、美術や音楽、あるいは上に書いた通り撮影なども大変優れたものであることは間違いのないところ。そんなこともあって、最初の方に記した、「勿体ない」という感想を抱かざるを得ない、というか、こちらもとても優れた作品であった『プレスティージ』と観る順序が逆だったらどういう印象だったろうか、などと一時考えてしまうような作品なのである。
ただ、結局のところ個人的には『プレスティージ』の方が上だという結論に至る。クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)の力量がやはりとんでもないものだし、そもそも空前絶後な感じの企画そのものが凄いと思うし、物語自体がこの映画のように「禁断の恋」みたいな紋切り型じゃないところも私の嗜好に合う。まあ、これはあくまでも個人的な評価なので、全く逆の感想を抱く人もいるだろう、とは思う。これまた個人的にはもう一つひねりが足りない、何か物足りない、と思ったのだけれど(どうしても『プレスティージ』と比べてしまうのである…。)、それは言い方を変えればとても分かり易い映画である、ということでもあり、そんな理由やあるいは別の理由でこちらの方が良い、という人も数多くいるだろう、ということを述べて終わりにしよう。以上。(2008/06/10)