竹本健治著『キララ、探偵す。』文藝春秋、2007.01

雑誌『別冊文藝春秋』に連載されていたものの単行本化となる。あたかも「この世の終わり」を思わせるかのようなコピーが帯に付されているのだが(笑)、その一部を紹介すると(というか、ほとんど全部だったりするが…)、「メイドが好き。死ぬほど好き。」(背の部分)、「僕たちにはメイドが必要だ。」(表紙部分)などなど、と…。最も端的に本書の内容を示すのは「鬼才・竹本健治がおくる史上初の美少女メイドミステリー」なのだけれど、まあ、そういう本なのである。
果たして本当に史上初なのかどうかについてはキチンと考証しないといけないのだが、ググってみるとすぐ発見出来る、例えば富士見ミステリー文庫から出ている鷹野祐希著『僕のご主人様!?』(2006/01刊行。続編あり。)のようなものとか、ある有名なメイド喫茶が最近販売を始めた『ミステリー&DIMENSION ロンドンのクリスマス編 T』のようなものの存在を見るに付け、結構微妙なのではないかと思ったりもする。ただしこれらが最近のものであることも確かで、「史上初」、というのは確かなことなのかも知れない。古いものだと、C.C.ベニスン『バッキンガム宮殿の殺人―女王陛下のメイド探偵ジェイン』(ミステリアスプレス、1998。原著の初出は不明)というのもあるけれど、路線が違う気がする訳で…。蛇足で「メイド探偵葛城彩乃」という、2001年頃に作られたと覚しきテクストへのリンクを張っておく。
さてさて、本題へ。本書は四つのエピソードからなる基本的にライト・ノヴェルの文体を持つ学園ものミステリ兼ドタバタ・コメディ、という位置づけが出来ると思うのだが、最近の仕事の中では『狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役』(カッパ・ノベルス、2006.04)にかなり近く、とは言えあそこまで本格ミステリ的ではない位の内容になっている。
実際のところ謎解きの方にはさほど重きが置かれておらず、むしろ「萌え」要素をこれでもか、というほどに散りばめ、徹頭徹尾世の「オタク」達に奉仕し尽くすことを目指したかの内容になっていて、もう少しそういうテイストを薄めれば大ベストセラーになっていたかも知れないのに(そうそう、余りにも横溢し過ぎな感じがする「萌え」要素に目をつぶれば普通に良く出来たエンターテインメント作品として読むことも可能なのである。)、基本的に「ある方向性を決めたらそれを徹底化する」(この人はアンチ・ミステリやメタ・ミステリといったジャンルにおいてそういうことをしてきたわけで…)というメンタリティを持つこの作家は、この作品においても「萌え小説」に最適な文体やプロット構築を模索しつつ実践し、あるいはキャラクタ造形やネーミング等々といった細部の作り込みを徹底化することで最終生成物=本書をかなりコアなものにしてしまったわけである。まあ、だからこの作家が好きなのだが…。
最後になるけれど、私はいわゆるオタクではないので、自他共に認めるいわゆるオタクの方々の本書への反応というのに大変興味を抱いている。そういう方達に本書はどう読まれるのだろうか?オタクといっても実のところは多様なはずなので、本書がなるべく広く読まれてその様々であるだろう反応がウェブ上その他にどっと流れることを期待しているところである。以上。(2007/03/15)