竹本健冶著『ウロボロスの純正音律』講談社、2006.09

講談社が刊行している『メフィスト』誌上に1999年から足かけ6年以上にわたって連載された、「ウロボロス」シリーズ第3弾にして、その掉尾を飾るらしい作品。本年8月3日にこの著者とも関わりが深く、このシリーズの登場人物でもある元講談社・文芸図書第三出版部長の宇山日出臣(うやま・ひでお)氏が肝硬変で亡くなっているのだけれど、その辺の事情やら追悼文といったものについてはどうやら刊行に間に合わなかったらしく(間に合っていたら載せていたはずだと思うのだが)、本書の本文、あるいは前置きやあとがきにも載せられていない。
さて、内容をかいつまんで記すと、初の長編コミック作品=『入神』を南雲堂(なんうんどう)から出版できる運びになった竹本健冶が、南雲堂社長の自宅という設定の「玲瓏館(れいろうかん)」に間借りをし、友人その他の助力を得つつその作業に入ったところ同館では奇妙な事件が頻発し、やがて殺人事件が…、というもの。ストーリィに関してこれ以上書くと何を書いてもネタバレなので自粛する次第。ちなみに、これだけは書いておかないといけないのだが、本書に記された囲碁・暦・ある種の音楽に関する蘊蓄は圧巻という他はないものである。
今回は宇山氏が登場していない点、同じく島田荘司や笠井潔といったこのシリーズではおなじみの面々が登場しない点はそれなりに重要だと思うのだが、ここで本書の主な登場人物を恐ろしく安易にAmazon.co.jpからコピペしてしまうと、それは「綾辻行人/河内実加/喜国雅彦/北村一男/北村薫/京極夏彦/国樹由香/倉阪鬼一郎/篠田真由美/千街晶之/竹本健治/遅塚久美子/南雲一範/西澤保彦/東雅夫/福井健太/南澤大介」といったそうそうたるものなのである。その中でも、綾辻、京極両氏の露出度が非常に高いことをここに記しておこう。
ところで、上記の人々というのは、実は先に述べたコミックのアシスタントというか、端的に言うと色々な箇所で作画をしている人々なわけで、本書の中には、「同書のメイキング=どこを誰が書いたかを克明に綴ったみたいな本を出せば売れるんじゃないか」、というような記述があって、本書が若干ではあるけれどもそういう部分もある書物であることも述べておきたい。
どうやら完結になる模様な「ウロボロス」シリーズだけれど、これは竹本健冶のライフ・ワークだと思うので続けて欲しい気もする。ネタがなくなった、ということもあるのかも知れないが、作家生活をやっている限りは身辺記録を書き綴るだけでも十分面白いものになるのではなかろうかと思う。何しろ、この人の人脈自体が途方もなく面白い訳で…。以上。(2006/11/21)