J.G.Ballard著 増田まもる訳『楽園への疾走』東京創元社、2006.04(1994)

巨匠J.G.バラード(James Graham Ballard)が10数年前に発表した長編小説の邦訳である。ディープ・エコロジーやラディカル・フェミニズムといったものとそれに対する批判がぶつかり合っていたあの当時の思潮をもろに反映した作品として読むべき作品であるとともに、この作者により1960年代から一貫して書かれてきた「破滅」ものの流れも組んだ作品で、そうした意味から言えばいかにもバラードの小説、といったような作品である。
刊行の翌年=1995年におけるフランス共和国による核実験再開を予見したかのような舞台設定となっていて、要はとある稀少動物保護活動家の英国人中年女性医師と彼女に賛同した者たちが、フランスの核実験場がある「サン・エスプリ島」に作り上げた「動物保護区」の体裁をとった奇妙なコミューンにおける、何とも陰惨な物語が展開することとなる。
どうもこの小説、2000年に公開された映画である、ダニー・ボイル(Danny Boyle)監督作品 The Beach(原作はALEX GARLANDという英国人)を彷彿とさせるものが多々あって、これは「パクられた」としか考えられなかったりもする。そんなこともあってか、主役の少年ニールにはレオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)を、女性医師バーバラにはティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)のイメージを当てはめて読むことになった次第である。以上。(2006/08/24)