Danny Boyle監督作品 『スラムドッグ$ミリオネア』
この映画紹介欄でも常連になっている英国の奇才ダニー・ボイル(Danny Boyle)が、かつては英国の植民地であったインドのムンバイを舞台にして撮りあげた大変な傑作である。周知の通り第81回アカデミー賞で8部門受賞という快挙を成し遂げたのだが、実際に観ればそれは当然、と言えるような作品。監督賞、作品賞は当たり前として、音楽賞を受賞したインド出身のA.R.ラーマン(A.R.Rahman)による音楽の素晴らしさには目を瞠ったし(サントラ買いますよ。これは。)、脚本賞を貰った、10年ほど前に『フル・モンティ』という傑作を書いたサイモン・ビューホイ(Simon Beaufoy)の脚本もまたこの上ない近い出来。未見の方はまずは観ておくことをお薦めする。「こんなのは近年なかった。」と断言出来るほどに良く出来た映画なのである。
さてさて、この映画、基本的には「何でも盛り込む」という点でマサラ・ムーヴィの手法を踏襲しているのだが、その構成が何ともニクイ。世界中で放送されている英国発祥のクイズ番組『クイズ$ミリオネア』に出演し、あと1問で史上最高額というところで「インチキ」との告発を受けて逮捕された青年ジャマール(デヴ・パテル=Dev Patel)の回想という形をとって物語は開始される。
兄サラーム(マドゥル・ミッタル=Madhur Mittal)と過ごしたスラムでの少年時代、母の死、やがて恋に落ちることになる美少女ラティカ(フレイダ・ピント=Freida Pinto。以上全て大人になってからの配役。)との出会い、窃盗グループでの生活とそこからの逃亡、兄との確執、ラティカとの別れ、といった波瀾万丈の物語が綴られ(そこがマサラ・ムーヴィなんだけれど。)、それに番組での出題・回答場面が被さっていく。果たしてジャマールは2,000万ルピーを手にすることが出来るのか、そしてラティカを取り戻せるのか?あとは観てのお楽しみである。
かの傑作『トレインスポッティング』以後、毎度毎度期待はさせられてもどこかもう一つ、という作品続きだったボイル監督が、とうとう殻を破ったというか、新境地を切り開いて更にそこから一歩も二歩も踏み出してしまったような作品で、まあ改めて大変な才能の持ち主だな、などと思うのである。しかしながら、どんなに才能に溢れていても余程のことがない限りはこんな仕事を毎回出来るわけもなく、またしばらく低迷してしまうかも知れないのだが、きっといずれは更に凄いものを見せてくれるだろう。その日が早く来ることを願う。以上。(2009/06/25)