細田守監督作品 『サマーウォーズ』
2006年公開の『時をかける少女』により注目を集めた細田守が、キャラクタ・デザインに貞本義行、脚本に奥寺佐渡子という同じスタッフを据えて制作した劇場用長編アニメーションである。映画のみならず、山下達郎による主題歌『僕らの夏の夢』もヒットし、取り敢えず今年の夏の話題をさらった作品と言えるだろう。
時はちょっと先の未来と思われる。情報通信や流通のみならず、金融から行政手続きや、はたまたインフラストラクチャのコントロールまでをも網羅するありとあらゆるサーヴィスを提供するネット内仮想空間OZが確立した世界。ある夏の日、OZのメンテナンスをアルバイトとして行なっているやたらと数学が得意な高校生・小磯健二(神木隆之介)は、憧れの先輩・夏希(桜庭ななみ)からアルバイトを頼まれる。それは、長野県上田市にある、室町時代から続く旧家でもある彼女の実家・陣内(じんのうち)家で行なわれる、彼女の曾祖母・栄(富司純子)の誕生会に付き合え、というものだった。陣内家に赴いた健二は、OZ内を発生源とするサイバー・テロまがいの事態に巻き込まれ、話は陣内家対テロを起こしたとある存在との「戦争」へと発展し、というお話。
非常に良く出来た作品なのだが、中でも、これがアニメーション声優としての初仕事となった富司純子の存在感は圧倒的なもので、感服。物語のキーになるのは栄が得意とする花札なのだが、これは彼女の代表作でもある『緋牡丹博徒』シリーズの第3作『花札勝負』から来ていることは誰の目にも明らか。この映画、要するに、この人の存在がないと成立しないのである。これを機に、「こいこい」ブームが、なんてこともあり得るかも知れない。
ところで、実のところ話自体は『時をかける少女』の作者である筒井康隆が書きそうなものだったりする。ちゃんと自衛隊も出てくるし(笑)。要約してしまえばこの作品、上田市、あるいは陣内家とその親族及び関係者の間に脈々と受け継がれた人と人との心のつながり、信頼を基本に置く日本的「和」の文化みたいなものが、いざという時にはもの凄く役に立つ、というお話なのだけれど、表面的にはネット万能主義へのある種の警鐘を鳴らしつつ、伝統への回帰を情緒豊かに謳い上げた作品、とも言い得るだろう。ただ、その割には、ネット内仮想空間OZの描写が余りにも素晴らしすぎて、「でもネットもイイよね。」なんていうホンネもチラホラ見え隠れする奥の深い作品なのである。まあ、要するにバカとハサミは使いよう、なのだ。以上。(2009/10/03)