Stephen Gaghan監督作品 Syriana 2006.07(2005)
ロバート・ベア(Robert Baer)という元CIA工作員が書いた『CIAは何をしていた?』(新潮文庫、2005。原題はSee No Evil: The True Story of a Foot Soldier in the CIA's Counter Terrorism Warで2003年刊。)という暴露本を元に、麻薬コネクションと捜査当局との死闘を描いたTrafficを作ったスタッフが再結集して作り上げた大がかりな作品である。今回は西アジアの石油利権を巡って起こる幾つかの出来事、即ち大手石油会社の合併、アラブの産油国継承者=王子暗殺計画、同じアラブの産油国の欧米資本からの独立計画、同じアラブの産油国におけるテロ組織の活動)を、群像劇という形で描いている。
それぞれのエピソードの中心人物を演じているのは、上の順にジェフリー・ライト(Jeffrey Wright)、ジョージ・クルーニー(George Clooney)、マット・デイモン(Matt Damon)という大物達とマズハル・ムニル(Mazhar Munir。実は読み方が良く分からない…)というほぼ無名の俳優で、中でも「いかにも」という感じの役作りが見事なクルーニーはこの映画で第78回アカデミー賞助演男優賞に輝いている。そういう役者達の演技振りも見所の一つではあるが、この映画の凄さというのは、アメリカ、ヨーロッパ、アラブの某産油国という地図上は誠に巨大な地域をその舞台とし、実に数多くの人物を登場させながらも、巧みな編集技術と演出、あるいは良く練られた脚本などによって一つの作品としてきちんとまとめ上げている点だろう。実のところこちらの方も高く評価されたようで、アカデミー賞では脚本賞にノミネートされている。
さて、以下蛇足を。個人的に大変興味深かったのはアラブの某産油国で活動しているという設定のテロ組織の描き方で、その勧誘、教育、教練、集会等々の全てが、メディアを通して我々の頭の中に出来上がってしまっている「暴力的」「過激」といったイメージとは対極的な形で描かれている。無意識に発露してしまいがちな「オリエンタリズム」を排除することというのはとても難しいと思うのだが、この映画にはそういうものから一線を引こうという志向性が顕著に伺えるのである。以上。(2007/03/04)