Bryan Sykes著 大野晶子訳『アダムの呪い』ソニー・マガジンズ、2004.05(2003)
ミトコンドリアDNAの分析から現世人類の母系祖先を同定するという大胆な試みであった『イヴの七人の娘たち』の続編に当たる本書では、タイトルから大体予想できる通り基本的に男性にしかなく、父から息子にそのまま引き継がれるY染色体の分析から父系祖先を同定する作業が試みられている。
Y染色体の分析から明らかになった様々な事実と、既にほぼ定説になった利己的な遺伝子理論を援用して導かれる様々な見解はなかなかに面白いのだが、やや議論に飛躍があるのも事実。思うに、全ての社会現象をY染色体で説明する必要はないのである。まあ、説明出来るものは確かにあると思うのだが、どうも強引に結びつけている感が否めない。また、本書が啓蒙書というか一般書という体裁をとっている都合上書き込まざるを得なかったのだろう恐らくは高校生以上なら誰でも知っているはずである生物学のおさらい的部分は削っても良かったようにも思う。実際問題、本題に入るまでに飽きてしまった次第。
まあ、それらの難点はあるもののこの人のやっていることは確かに面白い。各方面からの批判を受け止めつつ、厳密科学に則った壮大な理論構築をいずれ果たして頂きたい、と願うばかりである。以上。(2004/11/14)