山田正紀著『僧正の積木唄』文藝春秋、2002.08
島田荘司著『魔神の遊戯』(文藝春秋、2002.08)と同時に刊行された、文藝春秋が企画する「本格ミステリ・マスターズ」のスタートとなる同著者の最新書き下ろし長編である。タイトルでピンとくる方も多かろうと思うのだが、本作品は The Bishop Murder Case , Again という副題が示す通りS.S.Van Dine によるミステリ史上に残る大傑作『僧正殺人事件』(井上勇訳、創元推理文庫、1959(1929))の続編。更には、本作は本格ミステリの父とも言うべき Van Dine へのリスペクトをあからさまに表明しつつ(とは言え、若干揶揄も入っている。)、同時にまた、やはり同著者が尊敬してやまないらしい横溝正史が創造した名探偵・金田一耕助が登場し、主役を務める趣向となっている。何でそうなるかというと、New Yorkで起きた僧正殺人事件から何年か後、反日感情が日増しに高まるやはり同じNew York で、再び「僧正」を名乗る人物による殺人事件、すなわち「僧正殺人事件2」が勃発。横溝の『本陣殺人事件』などの記述から、当時奇しくもアメリカ合州国にいたことになっている金田一が、「犯人」と見なされ逮捕された日本人を救うべく本件の捜査に参加。見事な謎解きを成し遂げる、というわけである。オリジナル『僧正殺人事件』の再解釈、大江健三郎を思わせる終末論的ないし黙示録的ヴィジョンの具現、2001年の「911・テロ」や1995年の「オウム・テロ」への仄かな言及等々、誠に読み応え十分な内容。この人のキャリアに新たな金字塔が加わった観さえある本作を、読み逃すことの無いよう、切に願う次第。なお、巻末に付された同著者へのスペシャル・インタヴュウも、大変刺激的である。プロフェッショナルな作家というものがどういうものなのかが、淡々とした語りの中からつぶさに読みとれるのであった。以上。(2002/10/23)