William Gibson著 浅倉久志訳『パターン・レコグニション』角川書店、2004.05(2003)
ウィリアム・ギブスンによる最新長編。1980年代の鮮烈なデビュウから数えて結構長いキャリアを持っている気がするのだが、第7作目である。寡作を貫く姿勢に取り敢えず敬意を表する。
今回の作品は旧著である二つの三部作からは一線を画するものとなった。時代背景は2002年というまさにリアル・タイム。新商品が売れるかどうかを直感的に判断できるという特殊能力を持つ主人公のケイス・ポラードが、インターネット上に流布している謎の映像断片群「フッテージ」の作者探しという使命を負い、様々な妨害に逢いながらその使命を全うしていくプロセスをディテイルに拘った圧倒的な筆致で描く。
911テロの影を深く落としたこの作品、インターネット時代なのに結局は生身でロンドン、東京、ロシア、フランスを転々と移動することになるアメリカ人女性の主人公が常に悩まされる「ジェット・ラグ」こそが、その中心タームなのではないかと個人的には考えた次第。全く生身ではないヴァーチュアル・アイドルを中心に据えた『あいどる』(角川書店、1997(1996))のような作品と比べた場合の、主人公と謎の作者二人の描き方に共通するその生物学的身体の露骨なまでの強調は、21世紀に入って到達したギブスンの新境地そのものを表象するものであるのだろう。以上。(2004/12/06)