J.G.Ballard著 小山太一訳『スーパー・カンヌ』新潮社、2002.11(2000)
『コカイン・ナイト』(新潮社、2001.12(1996))に続く「病理社会の心理学≠テーマとする三部作」の第2作。
舞台はタイトルの通りフランス共和国はカンヌにある高級住宅街Super-Cannes(この実在する地名は、訳者あとがきの通り、「シュペール・カンヌ」と読まれるべきもの。)付近に創られたという設定の「エデン=オランピア」なる新興のビジネス・パーク。この地で起きた10人が連続して殺害されるという事件の「犯人」である自殺した医師の後任として赴任する女性医師の、元パイロットである夫が主人公でありかつ語り手となり、同事件の真相を追う。やがて彼は、その真相に近づくとともにある行動に出ることに…、というお話。
確かに前作と似たような話でありテーマなのだが、そこは三部作なのだから当然のこと。この優れたサスペンス・ノヴェルにおいては、エデン=オランピアを裏から支える精神科医が発案した、「管理・抑制された狂気」こそが人々に最高の治癒効果をもたらす、という「セラピー・プログラム」が話の焦点なのだが、それは端的に言ってエデン=オランピアで活動するエリート集団による組織的で管理された暴力行為、ということになるわけで、この描写が何とも凄まじい。すなわち、それには、民族浄化的要素のある白人以外の人々への襲撃や、組織的な少女売買春、これまた組織的な集団レイプ等々が含まれていているのだけれど、折しも日本という国でも同じようなことが社会問題となっていて、思わず「これはほとんど現実だな…。」などと膝を叩いた次第。
完結編となる第三作は近日(本年9月らしい。paperbackも11月に出るみたい。)発売のMillennium Peopleということになるようなのだけれど、期待しよう。以上。(2003/08/05)