法月綸太郎著『生首に聞いてみろ』角川書店、2004.09
誰でも知っている作品を書いたわけではないけれど、かと言ってこの人の存在を知らない人もそんなにいないはずのミステリ作家・法月綸太郎が著した久々の長編。物凄く評価が高いようで各種年間ランキングでは軒並み上位に選ばれている。まあ、それは当然な気がする内容である。
物語は一見単純そうに見えて、その実かなり複雑。癌で死んだ有名な彫刻家の遺作となった石膏像から頭部が持ち逃げされたかのように見える事件と、その直後に起こったその娘の失踪を巡って起こる諸々の出来事を描く。要約すると、この程度なのだが、話は16年前の出来事に飛んだり、となかなかに錯綜。法月のプロット捌きは見事なものである。
奇を衒わず、余計なことを一切書かずに事件とその真相のみを描くことだけに専念することで、ある意味物凄くストイックで、端正な本格ミステリ作品となり得ていると思う。それと同時に、この事件の真相に至るに不可欠な石膏彫刻及び産科婦人科に関する情報はきちんと開示されていて、著者の勉強振りには頭が下がるところ。こういうのは決して無駄知識ではないものだ。
昨年刊行されたミステリ作品の中では、貴志祐介の『硝子のハンマー』がどう見ても群を抜いていると思うのだけれど、より「本格」なものを好まれる方々はこちらの方を高く評価するかも知れない。面白さと斬新さでは間違いなく前者に軍配が上がると思うのだけれど、完成度の点では決して引けを取らない傑作なことも事実である。以上。(2005/02/13)