武井宏之著『重機人間ユンボル』集英社ジャンプ・コミックス、2007.05

その作品である『シャーマンキング』が完結することなく連載終了した青森県出身の漫画家・武井宏之が、ある意味鳴り物入りで同じ『週刊少年ジャンプ』に2007年第3号から連載を始め、わずか10回で打ち切りとなった作品。
いきなり余談に入ってしまうのだが、殆ど同じ時期に連載が開始された(第1号より)、『DEATH NOTE』の作画を担当していた小畑健が同じく作画を担当するというこれまた鳴り物入りの作品『ラル・グラド』も32回で打ち切りとなってしまっていて(単行本は現在第2巻まで刊行。絵は凄いのだけれど話は余りにも…、という作品。)、こんなことをやってて集英社は果たして大丈夫なんだろうかと不安になったりする。ドル箱だった『DEATH NOTE』が既に完結していて、同じくドル箱の『NANA』人気も明らかにかげりが見え始める中で(連載誌は『Cookie』)、集英社も新しいドル箱作りにかなり必死だったのだろうし今もそうなんじゃないかと思う。まあ、今のところは見事に失敗してしまっているわけだが…。
さてさて、話を『ユンボル』に戻して、と。この作品、「破壊と創造の工事ファンタジー!」と帯に銘打たれている、メカ物でファンタジィというまあこれまでにも多々あった組み合わせに(「バイストンウェル」ものなどがその典型。)、「工作機械」あるいは端的に「工事」という突拍子もないというかシュールでさえある要素を大々的に取り込んだ、かなり画期的というか多分未だ誰も描いていなかったのではないかと思う世界観に基づいた作品なのだけれど、どうも余りにもその世界設定が画期的過ぎるためにそれをコンパクトにしてスピーディ、かつまた十分な精度で表現するためのスタイルというか「言語」をこの作者はうまく作り出すことが出来ず、そのせいで大方の理解が得られなかったのではないか、と思うのだ。
キャラクタ造形やメカ設定、あるいは戦闘手段やそのネーミングの考案などについては既に『シャーマンキング』で実証されている如くある種天才的なところがあるこの作者だけれど、その点に関して言えばこの作品でもそれは大変見事な形で表出している。「人間と自然」、という『シャーマンキング』にも表われていたテーマ設定も非常に良い。そういう良いところが多々あるこの作品だけれど、肝心の舞台背景の説明については確かにもう一つ、なところもある。ただ、「工事」が世界の中心に置かれている、これまで誰も描いていないだろう尋常ならざる世界を表現するというのはどう考えても多大な時間というか要するにページ数を必要とすることなわけで、それがサラッと出来てしまったら誰も苦労しない。『ジャンプ』読者には、もう少し長い目で見守って欲しかった、と一言述べておくとして、そもそもこういう背景説明に時間がかかるのが分かり切っている物語を、敢えてあの世界で最もスピーディな序奏を要求される雑誌に掲載するという選択をした関係者には苦言を呈しておきたいと思う。
とは言え、こういうシヴィアさこそが、世界に名だたる日本のコミック文化を支えているのも事実で、作者自身もあとがきで「良い勉強になった」云々という何とも感動的なことを述べている以上は、次回作に大いに期待したいと思う。というか、個人的にはやはり短期間での連載打ち切り作であるこれまた大変画期的なデビュウ作『仏ゾーン』の続きが読みたいのだが…。以上。(2007/08/28)