Danny Boyle監督作品 SUNSHINE
あの衝撃的な作品Trainspottingから既に10年が経過してしまったことに今更ながら驚くのだが、それは措くとして、本作はあの作品で世に知られることになったダニー・ボイル(Danny Boyle)監督が、20世紀フォックス社というハリウッドの映画会社からの資本提供その他を受けて制作したSF映画、ということになる。原題はSUNSHINE。出演は今をときめくアイルランド出身のキリアン・マーフィ(Cillian Murphy)、真田広之(Hiroyuki Sanada)、ミシェル・ヨー(Michelle Yeoh)等々。
物語自体はとても単純。邦題からして西暦2057年なのだろう年のお話で、どうやら太陽の活動異常か何かで地球上の生命が危機に瀕している、という設定。それでもって、それを救うべく太陽に接近して核弾頭を打ち込むというミッションを与えられた8名の乗組員を擁するイカロス2号という宇宙船内では、太陽に近づくにつれ異常事態が次々と起こり、というお話。
まあ、同じようなテーマあるいは設定のSF小説を読みまくっていたり、コミックやアニメーションをある程度観ている立場からは、話の膨らませ方や細部へのこだわりなどがいかにも足りない、ということは確かに感じるところではある。D.ブリンの『サンダイバー』(ハヤカワ文庫)のようなものであるとか、幸村誠のアニメーション化もなされたコミック『プラネテス』(講談社)や、佐藤竜雄が監督したアニメーション作品『宇宙のステルヴィア』(DVDはキングレコードから)といった途轍もなく良く出来た作品群と比べてしまうと(ちなみにこれらは全て必読、必見である。)、この映画が持つ物語構成・世界設定の余りの凡庸さ、というのは決して否定出来ないと思うのだ。
ただ、物語はとても単純なのだけれど、そこはこの監督の作品なのでそうそう一筋縄でいくわけがない。28 Days Laterから音楽を担当をしているジョン・マーフィ(John Murphy)と(ついでながら、28 Weeks Laterという映画がアメリカなどでは5/11に封切られる模様。続編なのだが、監督はダニー・ボイルではない。)、ダニー・ボイルとは切っても切れない関係のUnderworldらによる音楽は誠に素晴らしいもので、アンビエントの一つの完成形と言っても良いほどのものだし、加えて、この監督の映画がいつもそうであるように、その研ぎ澄まされた、更には陰影のバランスが見事な映像には圧倒される他はないのである。
思うにこの映画においては、音と光、この二つがとても重要な意味を持っており、太陽光を意味するタイトルからして特に後者が、なのではなく、実は光さえをも音響によってその圧力というか量感のようなものを表現しようとする場面もあることから、等価に扱われているという風に考えたのである。あくまでも私見なのだが、宇宙船の構造や植物プラントの描き方などに見られる通りこの映画に間違いなく大きな影響を及ぼしているダグラス・トランブル(Douglas Trumbull)監督による1972年制作の超傑作映画『サイレント・ランニング』(DVDはユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンから。去年の暮れに出たもので、何と980円!)が持っていたそのタイトル通りの「静けさ」とは対極を目指した映画、ということが出来るかも知れない。
最後になるが、この映画におけるキリアン・マーフィの熱演振りは特筆に値するもので、アクション・スターには決してなり得ないこの役者が、それだからこそ出来るどちらかと言うと頭脳派の「優しいヒーロー」役を見事に演じている点は強調しておきたいと思う。全然マッチョじゃないトビー・マグワイア(Tobey Maguire)の活躍振りといいこの人の活躍といい、何となくハリウッド映画も転換期を迎えているような気がする。以上。(2007/05/01)