京極夏彦著『多々良先生行状記 今昔続百鬼 雲』講談社ノベルス、2001.11
ご存じ「京極堂シリーズ」のサブ・キャラクタである、在野の妖怪研究者・多々良勝五郎先生と、その「助手」である沼上蓮次が、伝説・妖怪談採訪旅行中に遭遇する事件を描いた、雑誌『メフィスト』掲載の旅情・妖怪ミステリ短編連作である。一応同著者の最高傑作であり、日本現代ミステリ史上の金字塔的な作品であると考えている『絡新婦の理(じょろうぐものことわり)』を執筆後、どうやらコミカル路線にも手を広げた観のあるこの著者だけれど、本作もお相撲さんをメイン・キャラクタとしてたてた『どすこい(仮)』と同じく、肥満体の多々良先生を主役として、同先生と沼上青年とのボケとツッコミの応酬を楽しめる内容に仕上がっている。「京極堂」を巻末の書き下ろし作品にしっかり登場させ、刊行が待たれる『陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)』への予告編的含みを持たせたのは、誠に、商売上手なところ。ということで。(2002/08/03)
山田正紀著『篠婆(ささば) 骨の街の殺人』講談社ノベルス、2001.10
驚嘆すべき作品である『ミステリ・オペラ』(早川書房、2001.04)に続く、この著者による本格ミステリ・新シリーズの第1弾ということになる。実はこのシリーズ、著者の言葉によれば何と、「トラベル・ミステリ」なのである。とは言え、正確にはあくまでも「山田正紀のトラベル・ミステリ」なのであって、一筋縄ではいかないのも事実。そうそう、主人公であり記述者である鹿頭(しがしら)勇作という人物が、それこそ「トラベル・ミステリ」を書こうとして訪れる各地で遭遇した事件を記述する、という形式により、いわば「トラベル・ミステリについてのミステリ」を生み出すことがこのシリーズの基本スタイルであるらしいことが、本書を一読する限りでは理解できる(ただし、今後どうなるかは、分かりません。)。誠に、大胆な試みと言えよう。さて、中身を少々紹介すると、舞台は兵庫県は篠婆という「篠婆陶杭(すえくい)焼」で知られる鄙(ひな)びた土地。「陶杭焼」というくらいなので、陶芸がメイン・モティーフとして扱われるのだが、その蘊蓄もさることながら(いつ勉強しているんでしょう?全く凄い!)、この陶芸を巡って行なわれる幾つかの殺人事件とその解決に至るまでのプロット構成は、本格ミステリとして実に優れたものであり、短い作品だけれども、かなり濃い口、と言えよう。是非ご一読の程。最後になるけれど、『オズの魔法使い』の登場人物達を模した主要人物設定もなかなかに楽しく、どうやら「オズの魔法使い」探しがシリーズの主張低音として奏でられていくのだろう今後の進展が期待される次第。第2、3弾の刊行はそろそろだろうか?ということで。(2002/09/18)