金森敦子『伊勢詣と江戸の旅』

これもやや古いので私設サイトの書籍紹介欄からは外しました。文藝春秋から新書として2004年に刊行されたものです。来週から正式メンバとなる合唱団で柴田南雄の『三重五章』という曲をやっておりまして、その関係と、朝熊山絡みで伊勢全般、特にお伊勢詣に関する情報を集めている関係で読んだのですが、大変面白い本です。

さて、この本ですが、副題に「道中日記に見る旅の値段」とついているように、ひたすら伊勢詣を含む江戸時代における旅というものが、一体庶民にとりどのような重みを持っていたのかを、それにかかるコスト面から追求しています。まあ、伊勢詣というのは信仰を言わば方便として、実のところは遊びがその目的の半分あるいはそれ以上だった、というのはこれまでにも様々に語られて来たことなわけですけれど、膨大な額を神楽奉納などに費やしている事実を見ますと、今までイメージとして持っていた以上に結構真面目に参拝していたんじゃなかろうか、という印象を持った次第です。これは、重大な問題ですね。

全体として細かすぎる気がする記述が続いていて、まとめ、とか、考察、といったことがほとんどなされておらず、そのためにこういう検証すべき問題がきちんと論じられていないのがやや残念なのですが、コスト、という一つのことにこだわりをもって記述されたことで非常に具体的な形で江戸時代の旅、というものを表現し得ているのではないかと考えます。是非ご一読を。

と、云う事で。