やや古いものの最近のブログ記事

邦訳文庫版が2003年刊行なので私設サイトの方には載りませんが、大変面白かったので紹介を。

テッド・チャン(Ted Chiang)というアメリカのSF作家による短編集『あなたの人生の物語』(浅倉久志他訳、ハヤカワ文庫、2003)という作品です。1990年から2002年までに書かれた8編からなる書物ですが、この作家の、2003年の時点ではこの8編しか発表していなかったという超寡作振りには驚かされます。長編もありません。

短編8本しか書いていない、ということはこの本だけでこの作家の小説家としての仕事は全て見渡すことが出来てしまうわけですが、まあ、その中身の濃いことと言ったらこれはとんでもないものです。

個人的には最高傑作であると考える、人類とは別の知性形態との交流による認識の変化をあつかった、人類学のテイストも適度にまぶされた「あなたの人生の物語」を筆頭に、荒川弘(ひろむ)作『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス、2001-)の原型じゃないかとさえ勘ぐってしまう「七十二文字」、チャンとともに1990年代のSF界を席巻していたG・イーガン(Greg Egan。この人の公式サイトは凄いですねぇ。)の作品に近い「理解」の3作が、特に強い印象を刻みつけてくれました。

そんなところです。

先週頭くらいに、ちょっと前(2001-2002)に出ていた既に絶版となっている藤木稟さんの『CROOK 1-5』(幻冬舎文庫)をオンライン古書店その他で集め切り、これを読んでいました。

あっという間に絶版になってしまったせいで私の目に止まる事もなかったわけですが、これはなかなかのもの。家庭内暴力その他を何とも禍々しいというか極めて絶望的なタッチで描いた傑作だと思います。

一冊にまとめたものなども出る様子が無いようで、このように今ひとつ評価が高くない理由は、登場人物への感情移入が基本的に不可能、ということにあるのかとも考えます。主人公の中学生はもとより、謎解き役のケース・ワーカの性格といったらこれは言語道断。他のキャラクタもおしなべて人格破綻していて、これは狙ってやってるのでしょうけれど一般には受け入れられなかったようです。

小説を書く、というのもなかなか難しいものですね。

と、云う事で。