東京シンフォニエッタ第33回定期演奏会、と。

先週の金曜日(7/5)になりますが、上野の東京文化会館小ホールで行なわれていた、東京シンフォニエッタによる第33回定期演奏会を聴いてまいりました。以下、簡単に感想などを。

昨秋の西村朗特集に行けませんでしたので、今回は聴き逃すまい、という感じです。幸いぶつかる予定はなし、でした。

その中身はと言いますと、この団体の創設メンバであり初代代表でもあるという野平一郎氏の生誕60周年記念、ということになります。なので、演奏曲は野平づくし、となります。

委嘱初演が1曲あるはずでしたが、これがやむを得ない事情で演奏されず、プログラム全体が変更になったようです。

以下、曲順に。ごくかいつまんで。

1. 「ドゥーブル」~室内オーケストラのための~(1999-2000/2008改定)
このオーケストラのために書かれた曲で、まだ完成していない、と作曲家自身は語っています。ドゥーブルとは英語のダブルですが、この曲の中では二重、表裏、対立、協調等々、色々な意味を含んでいるようです。そんなわけで、曲の中では様々な音要素が左記のような意味を伴って、互いに切り結んでいきます。何とも鮮烈な印象を与える作品でした。

2. 「もう一つの・・・月」~フルート、ヴァイオリン、チェロ、とピアノの為の~(1999)
これも同じくこのオーケストラのために書かれた曲です。A.シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」へのオマージュであり、かつまたシェーンベルクとの、1世紀をまたいだ対話を試みた作品となる模様です。ある意味古典的な構成による、現代音楽の極北とも言える作品だと思いました。

3. 「アラベスク第3番」~サクソフォンとピアノの為の~(1980-81)
学生時代の曲なのだそうです。楽音、というよりはむしろ二つの楽器が出しうる様々な音の響き合い、ぶつかり合いによって成立している楽曲になるでしょう。作曲当時は極めて実験的な作品だったのではないかと思いますが、楽曲としての出来栄えがやはり素晴らしい。長く再演され続けていることが頷ける次第です。

4. 「挑戦への14の逸脱」~ピアノ、8人の弦楽器と電子音響の為の~(1990-91/93)
休憩を挟んで4曲目の大作へと。

この曲、20年以上前に書かれたものでが、実に日本初演とのことです。何しろ長大な曲なのですが、計14の断章からなっています。その基本的な音構造は以下の通り。ピアノとコンピュータがインタラクションを行ない、そこに弦楽器群が調停者あるいは仲裁者として介入します。ピアノの音はそのままコンピュータに入力されもしますが、鍵盤の動きなどもモニタリングしており、これらの情報から音を生成していく、ということになるようです。

そうして生み出される音像、音響は、まさに圧倒的なものだったのですが、この曲の再演という「事件」は、メタなレヴェルでも非常に面白いものでした。実は、20年前に作られたプログラムが現行のマシンでは到底そのままでは動かず、再現させるためには艱難辛苦があったのだそうです。まあ、そうですよね。

野平氏曰く、どうやら、こうした曲はゴロゴロしているらしい。20世紀後半という時代において、テクノロジと芸術というのは実に不即不離な形で発展してきたと思うのですが、テクノロジ側の進化の圧倒的な加速度は、こんな現象も生み出してしまったわけです。いやー、面白いですね。

テクノロジは相変わらず日進月歩。これからも様々に試行錯誤が続いていくのでしょうけれど、いったいどんなものが現われてくるのか、非常に興味深いところでもあります。

以上、インスパイアされるところが非常に多かったコンサートの、ごく簡単な感想でした。

と、云う事で。