ヤニス・クセナキス『オレステイア』@サントリー・ホール。

去る8月31日(金)、サントリー・ホールで行なわれておりました、サマー・フェスティバル25周年記念特別公演、ヤニス・クセナキス作、オペラ『オレステイア』を観て参りました。以下、簡単に雑感などを。

まずは基本データ。指揮は山田和樹。二日ほど前に松本でオネゲルをやったばかり、という信じがたいスケジュールです。バリトン独唱は松平敬。ちなみに、オペラとは言っても独唱はこの人だけです。打楽器ソロは池上英樹。殆どが管楽器からなる楽器群は東京シンフォニエッタが担当。基本的に合唱劇なので音楽の中心と言っても良い合唱は東京混声合唱団。児童合唱は東京少年少女合唱隊。演出と美術はスペインののパフォーマンス集団ラ・フラ・デルス・バウス(La Fura Dels Baus)。舞台監督は小栗哲家、といった陣容でした。

曲は3部構成です。アイスキュロスの『オレステイア』3部作が土台になっています。初演は紀元前458年。ここではその原作のあらましをかいつまんで。

その1「アガメムノーン」は、トロイア戦争の勝利のため娘を生け贄としたアガメムノーンが、捕虜として連れられてきたカッサンドラとともにその妻クリュタイムネーストラーに殺されるまでを描きます。

その2「供養する女達」では、アガメムノーンとクリュタイムネーストラーの間に生まれたオレステースが、その姉エーレクトラーとともに、父を殺害した母クリュタイムネーストラーとその情夫アイギストスを殺し、復讐を遂げる過程が描かれます。

その3「慈しみの女神達」では、オレステースを母殺しの罪で告発する復讐女神(エリーニュース)と、弁護するアポローンとの、アテーナーを裁判長とする裁判が行なわれ、陪審員達の意見は真っ二つに分かれたものの、アテーナーの裁きにより無罪となり、激高するエリーニュースはなだめられ慈しみの女神(エウメニデス)へと変わり、世界に安定と喜びがもたらされる模様が描かれます。

クセナキス版『オレステイア』もほぼこれを踏襲しています。ただし、それぞれの役を担う歌手がいるわけではありませんし、全編がさほど演劇的ではないので、予備知識がないと何だか分からないんじゃないかと思います。字幕は殆ど見えませんでしたし。

まあ、兎にも角にも大変な舞台で、圧倒されました。舞台装置、衣装、照明、音響、プログラミング等々、めくるめくというか何というか。ラ・フラ・デルス・バウスを始めとするスタッフの皆様、お見事です。

音楽もまた凄まじいもので、特に一人多重録音で名を馳せている松平敬による、女声・男声を交互に切り替える歌唱はそれはそれは見事なもの。更に特筆すべきは打楽器群で、シンフォニエッタの皆さんも素晴らしかったのですがソロの池上英樹による神がかったパフォーマンスには驚嘆を禁じ得ませんでした。

そんなところです。最後になりますが、諦念に満ちた悲劇であると同時に祝祭性も十二分に孕んだこの複雑極まりないレパートリーを、うまく消化・整理し、色々なアイディアを盛り込んで何とも躍動感ある舞台に仕立て上げた、関係者の皆様には、惜しみない賞賛の意をここに表しておきたい、と思います。

と、云う事で。