東京シンフォニエッタ第28回定演。

昨日になりますが、板倉康明率いる東京シンフォニエッタの第28回定期演奏会を聴きに上野の文化会館小ホールまで出向いてきました。

今回は湯浅譲二特集。こういうことをする、というよりそもそもこういうことが出来ること自体が凄いのですが、中身も凄かったですね。湯浅譲二の各年代に渡る3曲と、彼が影響を受けたエドガー・ヴァレーズを1曲、彼から影響を受けた今井智景(いまい・ちかげ)を1曲という内容です。非常にその意図が明瞭に分かる、これ以上ないだろうというプログラムでした。以下、簡単に感想などを。

1. エドガー・ヴァレーズ オクタンドル(1923)
 基本的には1945年以降に書かれた作品を演奏するのがこのオーケストラの基本ポリシィだと理解していますが、時期的にはややさかのぼった作品。しかしそれも次の曲に行くための必然的な選曲だったわけですね。この曲は7人の木管・金管楽器+コントラバス奏者によって演奏されます。初演時においては、既成の概念を覆すような音構造・リズム構成に人々は驚嘆したのではないかと思いました。

2. 湯浅譲二 7人の奏者のためのプロジェクションズ(1955-1956)
 若き日の作品。1929年生まれですから、20代ですね。全7曲からなりますが、各曲に非常に多様な技法が取り入れられています。変転する音像に圧倒されました。ちなみに、プログラムを見るとプロジェクション・シリーズにおいては、J.P.サルトルの言う「意識の時間化」が図られているのだそうです。現象学的ですね。

3. 今井智景 シモルジェネシス 17人の演奏者のための(2009/2010改訂版)
 去年作られた新しい曲。そして今回はその改訂版です。なので初演ですね。これは本当に面白いと思いました。音による現代舞踏、あるいはモダン・バレーや能を見るような感覚が味わえます。複雑極まりない曲なので演奏することのみならず、聴くことや理解することにも相当な集中力を要しますが、会場は濃密な音楽空間と化していました。これは例えば5も同様です。

休憩を挟んで、と。

4. 湯浅譲二 室内オーケストラのためのプロジェクション(2008/2010改訂版)
 新しい曲です。一昨年東京シンフォニエッタによって委嘱されたもの。しかも今回はその改訂版の初演。一連のプロジェクションものの最新作、ということになるでしょう。これもまた、前述したサルトルのコンセプトを音楽化したもの、ということになります。短い曲ですが、密度は非常に濃く、個人的には本日の演奏会の中では一番明快な曲だと思いました。

5. 湯浅譲二 世阿彌・九位 4チャンネルテープと室内アンサンブルのための(1987-1988)
 本日のメイン・イヴェント、ですね。何せ大がかりです。IRCAM(サントル・ポンピドゥのInstitut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique)の委嘱作品で、朗読とシンセサイザによるテープ音源部分はIRCAMが作ったのだそうです。パフォーミング・アーツが隆盛を見せていた80年代をちょっとだけ感じました。ある意味、湯浅譲二の集大成的な曲でして、電子音楽と室内楽、そしてコンピュータによって変声・編集された詩の朗読がミックスされた、空前絶後とも言うべき作品となっています。宇宙的なスケールを持ち、人と自然、あるいは時間と空間の関係についての洞察を含む、哲学的示唆に満ちた、非常に優れた作品であり、かつまた名演奏であると思いました。

以上です。余りにも素晴らしいプログラム、ありがとうございました。次回は7月でこれは「室内オーケストラの領域III」、その次が12月で「一柳慧特集」なのだそうです。いずれも楽しみですね。

と、云う事で。