東京シンフォニエッタ第29回定期演奏会。

昨日になりますが、板倉康明率いる東京シンフォニエッタの、第29回定演を聴きに上野の東京文化会館小ホールまで足を運んで参りました。次回のコンサート鑑賞はちょっと先に、と下に書いてますが結局7/1になってしまいました。

さて、今回は、題して「室内オーケストラの領域III」。特集は組まれていませんが、前回の湯浅譲二特集に勝るとも劣らない集客。その湯浅特集で第10回佐治敬三賞を受賞したのも、集客に繋がっているのかも知れません。

プログラムは以下の通りです。

1. ヤイル・クラータク(Yair Klartag):双極性無秩序 室内アンサンブルのための(2009)世界初演

2. ベネット・カザブランカス(Benet Casablancas):ニュー・エピグラムズ 室内オーケストラのための(1997)日本初演

3. 猿谷紀郎(Toshiro Saruya):うけひ いま(2011)委嘱新作初演

休憩

4. 藤倉大(Dai Fujikura):ヴァニシング・ポイント アンサンブルのための(2004/2006)

5. 西村朗(Akira Nishimura):ピアノと室内オーケストラのための〈ヴィシュヌの臍(へそ)〉(2010)東京初演

最初のクラータク作品が第31回入野賞を受賞している関係で、頭にセレモニーが行なわれました。若干25歳位のクラータク氏に加え、湯浅譲二、松平頼暁という大御所が壇上に登り、挨拶。いやー、歴史を見てしまった、という感じです。曲自体は「躁鬱症」を表現しようとしたものである、とのことですが、様々なテクスチュアによって構成された、大変緻密かつインパクトのある作品だと思いました。

カザブランカスの曲は2楽章構成。管弦楽は10人にまで削られ、これにピアノが加わります。極めて激しい第1楽章に、ミステリアスな第2楽章。両者のコントラストが明瞭な楽曲になっていますが、この小編成オーケストラはその辺りを見事に表現していました。日本初演、というのが信じがたい良品だと思います。

3曲目の猿谷作品は前半の目玉、と言って良いでしょう。楽器の配置時間を利用して板倉氏と猿谷氏のトークが行なわれたのですが、要するに3/11という重い現実があって、そこで何をすべきか、どうすべきかを考えたのだそうです。結論として出てきた曲は「うけい」。現代語にすれば「祈り」あるいは「誓い」となるこの言葉を、複雑極まりない音の重なりによって表現しようとする意志を感じました。

休憩を挟んで4曲目。後半は、打楽器、ピアノが活躍します。やや活気のある曲が2曲。この辺りが、ちょっと前半とは異なりますね。

藤倉作品では打楽器奏者が弦楽器の弓を持って、ヴィブラホーンかなんかを弾くんですが、これがキュイーン、キュイーン、と鳴ってます。で、それに弦が絡む、と。そんなところからスタートします。でも弦にはミュートがかかっている、と。やがて弦楽器がピチカート奏法を開始し、打楽器群に立ち向かい始めます。そんな曲です(笑)。この曲、かなり面白いと思いました。タイトルも曲にピッタリですね。いやー、打楽器楽しそう!大変なんだろうけど(笑)。

ラストの西村作品は誠に見事な作品。全体を締めくくるに相応しい内容でした。始めにトーク・セッションがありまして、場内は爆笑の渦。楽曲もヒンドゥー神話を題材として、西村氏らしいコスモロジー、宇宙、生命、といったキーワードで埋め尽くされたような仕上がりで、非常に面白かったです。特に、コーラングレのリードのみで奏される部分が極めて印象的。ヒンドゥー神話に出てくる大蛇ナーガを表現しているのでしょう。3部構成ですが、基本的に標題音楽になっていて、ある意味大変分かりやすい楽曲です。ピアノを担当する藤原亜美さんの熱演振りも見事でした。

演奏会後、板倉氏自身、「現代曲の演奏会では珍しいことですが」、と断った上で、あの震災に対する回答、ということでアンコールが行なわれました。演奏されたのは、去年室内オーケストラ版が出た西村朗作「星の鏡」でしたが、この曲、全てを包み込むような、非常に柔らかく、暖かく、そして優しい、名品だと思いました。

以上、ご報告まで。

と、云う事で。